What is “pseudotendinitis”?
指や手首などを動かすときに痛む
「腱鞘炎モドキ」のことをお話する前に、まず腱鞘炎とはどんな病気かご存知でしょうか。
腱鞘炎とは簡単に言えば腱と腱の通り道である腱の周りにあるトンネルのような腱鞘(けんしょう・鞘とは「さや」のことです)との間に炎症を起こしている状態で、手のひらの指の付け根では「ばね指」、手関節の橈側(親指側)では「ドケルバン腱鞘炎」がよく知られていますが、他に肘や肩、もちろん下肢にも同様の症状が起こることがあります。ただし、正確には腱鞘という組織がある部位でのみつけられる診断名ですから、腱鞘のない部位で似たような症状がある場合は腱周囲炎または腱炎などという病名が適当かもしれません。一般の方には腱鞘炎はよく知られている用語でもあるため、真の腱鞘炎ではない場合も含めて腱鞘炎と呼ばれていることが多いようです。
妊娠の前後や更年期の女性に起こることが多く、スポーツや仕事で特定の動作を繰り返して行う人にもよく見られます。
整形外科で診断される腱鞘炎
局所の腫脹、熱感などが明確な場合は診断は容易ですが、実際には、このような明らかな所見が無い場合のほうがむしろ多いでしょう。最近ではエコーによる疼痛のある部位に一致した腱鞘の腫脹または肥厚や滑膜炎などを診断の根拠にされることもあるとは思いますが、エコーはもちろんのこと高解像度のMRI画像にも有意な異常所見が見いだせない場合も少なくありません。
腱鞘炎の治療
そもそも画像所見などで確定が難しい疾患ですから、その痛みの部位に負荷をかけたときに痛みが強くなるなどの所見をもって腱鞘炎と診断されて、消炎鎮痛剤の内服・外用薬、制動するためのサポーターや固定するための装具、局所にステロイド剤や局所麻酔薬などの注射をされ、あるいは電気治療などの物理療法またはストレッチなどの運動療法を処方される場合が多いのが現在の整形外科における治療の実情です。
ところがその中に…
実はこのような腱鞘炎のような症状があるものの中に、手や手首ではなく、脊椎(主に頚椎)に関連した病態があることがわかっていますが、一般の整形外科ではまだあまり知られていません。この事に関連して手足など四肢の症状がマッケンジー法により評価した結果どのような介入でそれらの症状が改善したのかを研究した報告があります※。これによると、明らかな脊椎に関連した疾患がない、四肢の症状のある322例を評価をした結果、最終的に脊椎に関連していると判断されたもの、つまり、症状のある四肢の局所ではなく頚椎〜腰椎に対する介入で症状が改善したものが、140例(43.5%、部位別には、股関節71.0%、大腿または下肢全体72.2%、膝関節25.6%、足関節または足29.2%、肩関節47.6%、上肢全体または前腕83.3%、肘関節44.0%、手関節または手38.5%)でした。部位別の数値を見ると、手関節または手については38.5%が局所の問題ではなく、脊椎に関連した病態であったことがわかります。
つまり、おおよそ10人の手や手首の痛みのある人の中で4人は頚椎への介入で症状が改善したということになります。
※A study exploring the prevalence of Extremity Pain of Spinal Source(EXPOSS). J Man Manip Ther. 2020; 28(4): 222–230
Published online 2019 Sep 2 (論文は全文無料でご覧いただけます)
腱鞘炎モドキ(pseudotendinitis)
このような手指の痛みがあるものの中で一見すると腱鞘炎のような症状であっても、頚椎の運動により手や手首の痛みが劇的に改善するような病態を私は「腱鞘炎モドキ(pseudotendinitis)」と呼んでいて、これまでにも「マッケンジー法・症例ファイル」の中でご紹介してきました。なぜこのような呼び名にしたのかというと、手や手首の症状があるところには一切介入せずに、頚椎(〜胸椎)のエクササイズで速やかに、場合によってはその場で症状が改善してしまう病態なのですから、これを手や手首など局所の腱鞘炎と診断するには無理があり、少なくとも腱鞘炎ではないのは間違いないと考えられるからです。
腱鞘炎モドキを疑わせる所見として、
・使いすぎなど、あまり思い当たるきっかけがない
・同様の痛みを繰り返す(再発を繰り返す)
・痛いときと痛くない時がある
・痛みのある部位が動く(変わる)
・痛む動作のタイミングが変わる
・じっとしていても痛いことがある
などがありますが、これらの症状がそろったら腱鞘炎モドキであるという意味ではありません。
他の情報もあわせて評価していくのですが、少なくともはっきりしない痛みがダラダラと続くようなときには、「腱鞘炎モドキ」の可能性があるのだということを皆さんにお伝えしたいのです。
どうすればいいの?
もし腱鞘炎のような症状があって痛い部位の治療を続けているのに症状が改善しないようなとき、「腱鞘炎モドキ」の可能性がありますから、国際マッケンジー協会の認定資格をもつセラピストの在籍する施設でマッケンジー法による評価を受けていただくことをお勧めいたします。
また、お近くに認定セラピストの在籍する施設がない方には、当方のオンライン相談もご利用いただけます。インターネットでのZoomやGoogle Meetなどを利用したリモート接続環境があれば休日・夜間などにもご自宅からご利用いただけますので、昼間は忙しくて病院に行く時間がないという方にもご利用いただけます。腱鞘炎と診断されて治療しているけどなかなか治らないという方はぜひ一度ご相談くださいませ。
※facebookのページに、オンライン相談や対面でのエクササイズ指導を体験された皆さんのレビューをご紹介しています。
※環境によりfacebookのページのレビューがご覧いただけない場合は、こちらの「皆様の声」というレビューをご紹介したページでマッケンジー法によるオンライン相談などを実際に体験していただいた皆様のご感想をご覧いただけます。
腱鞘炎モドキの登場する「マッケンジー法・症例ファイル」のお話
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