case_265 右肩痛

夜中に寝ていて急に右肩が痛くなりました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肩が痛くて相談に見えた50代女性のお話です。

事務でデスクワークのお仕事です。3日前、夜中に急に右肩が痛くなりました。
翌日、近くの整形外科にかかり単純X線検査(レントゲン写真)で右肩に石灰化があるけれど、新しいものではないと言われ、右肩に注射をしてもらい、痛み止めをもらいました。しかし、その後も症状は全く改善せず、その夜も、またその次の夜も痛みで寝られず受診となりました。

じっとしているとなんともないのですが、少し動かすと痛みが走るような状態で、顔を洗うこともできません。
診察室でも右手を自分であげようとすると30°でこれ以上は動かせないという感じです。

当院でもX線画像を確認してみましたが、やはり右肩には古い石灰化の所見があります。

座っている姿勢はやや猫背です。まずは姿勢を整えて1分ほどしてからもう一度うかがいます。

佛坂
佛坂

さっきと同じように右手を前から上げてみてもらえますか?

A子さん
A子さん

さっきより少しいいかも…

少し良い印象ですから、頚椎から胸椎をしっかりと伸展する運動を繰り返してから、もう一度、右肩の動きをみます。

A子さん
A子さん

少し上げやすくなったような…

(RETを意識した SOC B?)

さらに頚椎をしっかりと伸展する動きなどもみてみましたが、これ以上の改善はみられません。

(RET+EXT w/op self NE)

しっかりと頚椎を伸展すると気持ちが良いようなので、このまましっかりと伸展するエクササイズを選ぶことにしました。幸い、夕方もう一度確認することができる方だったので、エクササイズのやりかたをご説明し、夕方までエクササイズをやってからどうなるのか報告してもらうことにしました。

それから4時間後。エクササイズは3セットしかできませんでしたが、相談前よりよいようだとのこと。

夜寝ている時に症状が強いとのことですから、寝方もチェックしておきます。
通常の枕をするような寝方で、仰向けに寝ていると痛みが強くなるとのことでしたので、枕をはずして背中にタオルのロールを入れてしばらく背骨を伸ばす負荷をかけた状態を続けてみます。

しばらくしても特に痛みがないようなので、これも寝ている時の対策としてみます。

それから2日後。

佛坂
佛坂

夜眠れました?

A子さん
A子さん

受診した日から夜は痛みもなく眠れました!

例のタオルが効いたのか、それとも寝るまでにやったエクササイズが良かったのかはわかりませんが、夜の痛みは全くなくなりよく眠れたようです。痛み止めは使っていません。

それでもまだ右手を上げる動作は以前ほどではないのですが痛みがあります。右肩挙上は100°くらいです。
左手で自助しながらの右肩挙上は疼痛なく完全にできます。

そこで、右肩挙上のエクササイズのやり方もご説明し時々していただくことにしました。

それから3日後。

佛坂
佛坂

その後、調子はどうですか?

A子さん
A子さん

だいぶいいです

佛坂
佛坂

手の上がり具合は?

A子さん
A子さん

もう左手を上げるのと同じくらいできます

もはや痛みというほどの痛みは再現されません。

今後も良い姿勢とエクササイズを続けることの大切さなどご説明し卒業としました。

今回は単純X線写真では陳旧性の石灰沈着性腱板炎と診断される病態でしたが、この古い石灰化が受診して消えたわけでもなく症状は速やかに改善しましたから、今回の痛みに関係していたと思えませんね。

多少右肩を動かす指導もしましたが、基本的に脊椎を動かすエクササイズのみで症状は改善しました。

つまり、脊椎に関連した右肩痛であったと結論して良いのではないかと思いますが、皆さんは今回のお話でご紹介した肩の痛みの原因・病態をどうお考えになるでしょうか。


今回のお話のような石灰沈着がある肩の痛みが必ずしも肩ではなく、頚椎〜胸椎に関連した痛みであることはAmazon Kindle版「マッケンジー法・症例ノート・#13: 〜左肩痛(肩関節周囲炎?)」でもご紹介しております。ご興味ある方はそちらもご覧くださいませ。

マッケンジー法・症例ノート・#13: 〜左肩痛(肩関節周囲炎?)〜 整形外科医が自ら実践するマッケンジー法シリーズ Kindle版