case_260 左膝痛・右足痛

あまり覚えのない左膝の痛み

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は膝の痛みで来院された70代男性のお話です。

70代といっても現在も一日8時間ほど座ってのデスクワーク現役です。
7年ほど前に右足首を捻挫して、以後、体に負担のかかる作業で無理したときなどに右足首の痛みを感じます。
右足首については以前整形外科にかかって骨が出っ張っているのでそこが痛いのだろうといったことを言われたそうです。
もともとウォーキングをしていたのですが、この半年ほどは特に理由もなくやめています。趣味で週に一回くらい釣りに出かけます。

一ヶ月ほど前のある朝、起きたときから左膝の内側が痛いことに気づきました。
前日まで何も変わったこともなく、思い当たることはありません。
階段を下りるときなどに痛みがあり、改善しないためお近くの整形外科にかかり、単純X線検査(レントゲン検査)で膝の軽い変形があると言われて一週間おきにヒアルロン酸注射を4回左膝に打ってもらいました。そちらでは注射で変形が治るわけではなく痛みを緩和するための注射であると説明されたそうです。
その後もあまり症状は変わらず、私の診療を受けたことのあるご家族から、マッケンジー法での治療を受けてみてはとすすめられて受診されました。

どういう動作の時かあまりはっきりとはわからないのですが、急な動作で膝を動かす時や、階段を下りる時などに左膝が痛むことが多いようです。膝の痛みで正座が難しいようですが、お風呂で温まっているとだんだんとお風呂では正座ができるようになるようです。

今回の膝が痛くなったこととは関係ないことかもしれませんが、以前から中腰で少し腰が痛いと感じることがあるそうです。
痛い時で右足首が3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、左膝内側に2点の痛みがあるのですが、現在はさほど感みを感じません。

診察時点であまり症状がなくても、マッケンジー法ではお話の内容などから評価をすすめることはこれまでにもご紹介してきたとおりです。

姿勢の矯正保持では特に変化はないようです。

腰椎の可動域は軽度の制限がある程度で問題ありません。

まずは座ったままでしっかりと背骨を動かすことをやってみます。

特に問題ないようです。

(SOC NE)

診察室では症状の再現が難しいので、診察室を出て病棟に上がる階段のところまで行って、階段の上り下りで症状が再現できないか確認してみることにしました。

2階に上がる踊り場まで上がっていただき、降りてきてもらいます。

佛坂
佛坂

いつもの膝の感じと比べてどうでした?

B男さん
B男さん

今は痛くなかったです

ひょっとしたら、さきほど診察室で評価を開始する前に階段のところまで来ていたら、左膝の痛みについてのベースラインが取れていた可能性がありますが、時すでに遅し。症状は全く再現できません。

少なくとも痛みが強くなることは何もなかったので、今回は座位で脊椎をしっかり動かすやり方を宿題にして経過をみることにしました。

それから一週間後。初回のフォローアップになります。

B男さん
B男さん

驚くほど良くなりました!

先週の来院から以後、右の足首も痛むことはなく、左膝も階段をおりるくらいでは痛みは感じないレベルになったようです。

エクササイズはかなりこまめにやっているとのこと。
やり方を見せていただきます。

B男さん
B男さん

立ってるときにはやりにくいんですよね…

座っていることが多いお仕事でしたので、合間にやりやすい座位でのエクササイズのみ宿題にしていたのですが、同じような動きを立ってもやれたらと自分なりにやってみたそうですが、少々やりにくいようです。

佛坂
佛坂

立ってやるやりかたもあるので、ちょっとやってみましょう

その前に一度しゃがんでいただき、左膝のごく軽度の痛みが再現できることを確認しました。

立ったままでしっかりと腰を伸ばすやりかたをご説明して10回。

佛坂
佛坂

さっきと同じようにしゃがんで膝の痛みを確認してもらえますか?

しっかりしゃがんで、それから立ち上がり、驚いたようにこちらを見て、

B男さん
B男さん

軽くなりました!

佛坂
佛坂

いま腰を伸ばしたことで膝の症状が変わったことを忘れないでくださいね

(EIS 10回 B)

B男さん
B男さん

正座もできるようになりますかね?

佛坂
佛坂

それはわかりませんが、私だったらいずれできるようになると信じてエクササイズをつづけるでしょうね!

今後もエクササイズを続けることの大切さをご説明し卒業としました。

実はこの方の息子さんは以前から糸島を盛り上げようと頑張っている方で、最近は糸島でワイナリーのためのぶどう畑を作っている方です。

ある日、いずれぶどう畑の仕事を手伝ってほしいとお父様に言われたところ、足が痛いから無理と返され、ならばと私のところへ連絡され受診が決まったのでした。

ほんの些細なことでも人に話すと思わぬ好展開になることもあるものだと改めてコミュニケーションの大切さを感じます。

膝の痛みもなくなったので、将来は親子でぶどう作りされるのでしょう。糸島ワインの出来上がりを楽しみにしています。