case_243 右肩痛

一年ほど前から右肩の前あたりに痛みがあります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肩の痛みで来院された50代女性のお話です。

3年ほど前から荷出しのお仕事でかなり重いものを抱えることが増えたようです。1年前くらいから、動かし方で右肩の前方に痛みが走るようになりました。右肩を動かす動作全般に痛いのですが、特に炊飯器のご飯をしゃもじで混ぜる動作のときにはビリっと響く感じがあります。整骨院に通っているのですが、そのときにはなんとなく気持ち良いものの、動かしたらやっぱり痛いという状態が続いています。
サップの趣味があるのですが、右肩の痛みが気になり最近では見に行くだけのような参加のしかたになっています。

診察室にはしゃもじはないのですが、エアで同じ動作をしていただいても、やはり8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが再現でき、また右肩前方挙上で5点、外転で3点の痛みが再現できることを確認しました。手を後ろに回す動作(HBB: Hand Behind Back)では気になるほどの痛みはありません。

ご自分の姿勢が猫背なのが気になっているようで、

A子さん
A子さん

猫背なんですけど、関係ありますかね?

佛坂
佛坂

関係あることが多いので診ていきましょうね

これまでにも何度もご紹介してきましたが、猫背の姿勢と上肢の症状とが関連していることは少なくありません。

姿勢の整え方をご説明し、姿勢を矯正した状態を1分ほど続けてみます。

佛坂
佛坂

さっきのしゃもじで混ぜる動作やってみましょうか

何度かしゃもじで混ぜる動作をしながら、

A子さん
A子さん

痛いんですけど、さっきほどじゃない感じですね…

佛坂
佛坂

さっきは8点くらいって言われたんですが、今は何点くらい?

A子さん
A子さん

5点くらい…かな

脊椎に関連した症状のような印象ですから頚椎の評価を続けます。

頚椎の可動域はあまり問題ありません。

先程の良い姿勢からさらにグーッと極端に背中を反らせるようにしっかりと顎を引く動作を繰り返してみます。

A子さん
A子さん

さっきはこうやってしゃもじを返すときに右肩の前側が痛かったんですけど、今は肩の後ろの方が少し痛い感じですね…前はあまり痛くないです

(SOC 5回 B? 痛みが前から後ろへ移動)

このように同じ肩であっても特定の頚椎運動の後に肩の痛みの場所が変わるというのは頚椎に関連した痛みであることを示唆する所見です。

もともとお元気な方ですので、さらにしっかりと頚椎を伸展するところまでトータルで5回動かしてみます。

佛坂
佛坂

しゃもじ返す動作やってみましょうか

何度か向きを変えたりしながら確認して、

A子さん
A子さん

痛くないです!

佛坂
佛坂

手を上げるのもやってみましょう

前方に上げる動作と横に上げる動作もやってみます。

A子さん
A子さん

少し違和感はまだありますが、痛くないです!

(RET + EXT 5回 B)

一年前から続いていた右肩の痛み。右肩を動かすときに右肩前方が痛いのであって、首の動きで右肩に響くわけではないのに、それでも頚椎の運動をすることで改善する右肩痛でした。マッケンジー法による評価結果は頚椎に関連した症状であったことは間違いないでしょう。

これまでにも何度も様々な肩の痛みが頚椎のエクササイズで改善したお話をご紹介してきましたが、以前からブログをご覧いただいている皆様はもうお気づきでしょうか。

今回の痛みの場所は肩の前方で、多少の肩関節の挙上・外旋から内旋を繰り返すような肩甲帯に負荷がかかるような動作で強い痛みが誘発されていましたが、その特定の動作(ここではしゃもじで炊飯器のご飯を混ぜる・返す動作)をするときに「解剖学的にどの骨、関節、筋肉、腱に負荷がかかっているか」ということには私は一切言及していませんね。でも、頚椎の評価をしているうちに、その症状はなくなりました。

もちろん今回のように頚椎に関連した痛みではない場合もあり、その場合には引き続き肩の評価となりますが、肩ではなく頚椎に介入する段階で良くなる肩の痛みについて、肩の解剖学的構造を云々することに何か意味があるのでしょうか?

皆様はどうお考えになりますか。


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マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、一般の方にも読みやすいように医学書のような難しい表現をできるだけ避け、各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を別のページで検索することなく読めるような構成になっています。

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