case_236 繰返す腰痛

数十年来、年に一回くらいギックリ腰を繰り返しています

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は腰痛を繰り返すという70代女性のお話です。

若いときから趣味で卓球をやっているそうで、基本的にお元気な方です。
20年ほど前に子育てが終わった後、また卓球を定期的に楽しんできました。
しかし、どんなときなのかははっきりしませんが、若い頃から年に1回くらいの頻度でギックリ腰を繰り返しているそうです。
半年ほど前のこと、卓球から帰ってきてしばらく座っていた後、立ち上がるときに急に腰が痛くなりました。
例年だったらその腰痛が治まったらおおよそまた普通に生活できていたのですが、それから2ヶ月ほどした頃に、再びギックリ腰になってしまい、これほど短期間に連続してギックリ腰が続いたことがこれまでなかったため、それからは怖くて卓球に行けなくなってしまいました。

現在の腰痛の程度はさほどではありませんが、かなり前から左足にはしびれがあるようです。足のしびれのあるあたりが痛むことはありません。

単純X線検査では軽度の変性所見を認めますが、体を動かして問題になるような程度の骨粗鬆症や不安定性などの病変はないようです。

腰椎の可動域は軽度に制限があり、腰を横に動かした時に腰の左側に軽い痛みがあります。

(RSG P-NW)

姿勢を矯正して保持してみましたが、あまりはっきりした反応はありません。

現時点では腰を横に動かしたときの症状しか再現できませんでしたので、横に動かすときの可動域制限とその際の痛みをベースラインとして評価することにします。

これまでのところ、あまり動かすべき方向を示唆する情報はないのですが、卓球をして座った後に立ち上がったときから腰が痛くなったといったエピソードの情報をもとに、まずは伸展方向の負荷をかけてみることにしました。
可動域検査では立ったままでも腰椎の伸展はできそうでしたので、立位のままで伸展するやり方をご説明し、まずは1回しっかりと伸展してみて特に問題ないことを確認しトータルで10回伸展してみます。

佛坂
佛坂

大丈夫でした?

A子さん
A子さん

痛くなかったです

佛坂
佛坂

腰を横に動かすのやってみましょうか

A子さん
A子さん

今は…痛くないですね

(EIS 10回 abolish RSG痛 ROM↑ B)

横へ動かす動きも改善しています。先程あった再現性のある痛みは消失してしまいましたので、とりあえずこのエクササイズを続けながら腰痛がどうなっていくのか見ていくことになりました。

それから一ヶ月ほどはあまりはっきりとした改善感はなかったものの、卓球には復帰できていて2巡参加してみて何も問題なかったようです。卓球の前後もエクササイズを忘れないようにとご説明し、ちょっと間を空けて1ヶ月おき程度に状況を報告してもらうことにしました。

初診から2ヶ月、エクササイズをすると足が軽くなるという実感がある状態です。

そして初診から3ヶ月ほどたったころ、初診から6回目の診察の日。

だいぶ良くなったと実感されるまでになっています。

まだ朝起きた時に少しだけ腰が痛いというくらいで、日常的なことは何でもできるようになりました。
左足のしびれはまだあまり変わりませんが、生活には支障のない程度です。
エクササイズはというと、ちょっと間が空いたら、あっ、やっておかないとという感じで「こまめに」実施するというお約束通り出来ているようです。

佛坂
佛坂

もう卒業でも大丈夫だと思いますが、いかがですか?

A子さん
A子さん

こちらに来て診てもらえると思うと安心なんですよ…

佛坂
佛坂

これまで一緒にやってきたマッケンジー法というやり方では、症状を改善するだけじゃなくて、医療に対する依存心を無くすことも、とても大切なことだと考えているんです。よく、あそこの整骨院はいいから毎週通ってるっていう話を聞きますが、それは治ってるのではなく依存になってると思いませんか?

A子さん
A子さん

そういえば、自分も近所の整骨院に毎週通っていたころは、通っているから安心のような気がしてました

佛坂
佛坂

もうA子さんは、自分の腰をメンテするのにやるべきことがわかってますよね?症状が良くなるまで何を続けたら良いのかという道がはっきりと見えてますから、もう大丈夫です。病院に来る時間も自分の好きなことをする時間にあててはいかがでしょうか。これからもエクササイズをしっかりと続けて、なお解決できない問題があったらまた遠慮なくご連絡くださいね

マッケンジー法は四肢・脊椎の痛みを中心とした症状の改善を目的とした評価法であり治療法ですが、最終的には再発予防のための自己管理ができることを目指しています。このような症状改善・再発予防のためのトータルな医療システムであるという観点からマッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)はある意味、患者の教育システムとも言えます。

私が患者さんの「治療が終了する」と言わずに「卒業する」という表現を使うことが多いのはこういう視点を大切にしているからなのです。


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また、これからマッケンジー法を勉強してみたいと考えている皆さんにはマッケンジー法による患者さんの評価と治療の様子や考え方など、その雰囲気をお伝えできればと考えています。

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