何年も続いている両下腿のしびれ
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は何年も前から両足のしびれがあるという70代男性のお話です。
お仕事は老舗の製造業で立ち仕事で前かがみが多い腰に負担の大きいお仕事を、若いときから何十年もつづけていて、今も現役で毎日働いておられる大変お元気な方です。
若いときから足のしびれを自覚していて、記憶する限り40代のころから近くの病院でメチコバールを処方され、現在も内服を続けています。
腰も何年も前から痛いことがあるようで、以前かかった整形外科で腰の骨が曲がっていると指摘されたことがあります。
どんな時により症状が悪くなるのか伺ったところ、じっと座っていても両膝から足先までしびれていますが、仕事中は仕事に集中しているせいなのか、しびれはあまり意識しないようです。
単純X線写真では、腰椎に強い左突側弯を伴う変形があります。側面像で屈曲伸展ではほとんど腰椎椎間の動きがありませんが、動かして問題になりそうな病変を疑わせる所見はありません。単純X線写真のみでは正確な診断はできませんが、かなり脊柱管は狭いように見えます。
いま、こうして座っているときも両足のしびれがありますか?
膝裏をさわりながら、
ここから足までしびれてます…左の親ゆびはズキズキして痛いです
じっとしていても左母趾が5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)くらいズキズキ痛むようです。
座っている姿勢はやや猫背で、家でも仕事終わった後などはリクライニングにだらりと腰掛けていることが多いそうです。
まずは姿勢を矯正してみます。腰椎の動きが悪いのですが、できる範囲でしっかりと骨盤を起こして1分ほどしてからうかがいます。
いましびれはどうです?
んっ…? ないみたいです…
左親趾の痛みは?
痛くないです
全然?
全然痛くないですね…ズクズクしないです
(姿勢矯正保持 しびれD-B、左母趾痛A-B)
もとの座り方に戻すとしばらくしてまたしびれてきました。
立位での可動域を確認すると側方の動きは重度の制限がありますが、屈曲伸展は中等度の制限程度で、立位での屈曲伸展では症状は誘発されません。
座位のままでしっかり腰を伸ばしたりダラリと腰を曲げたりを繰り返してみますが、終わった後のしびれの具合はあまり変化がないようです。
(SOC NE)
そこで、もう一度、背筋をしっかり整えて保持してみると、すぐにしびれも左母趾の痛みも消えてしまいます。
初回評価はここまでとして、まずは座位での姿勢矯正のみの宿題として初回評価を終了しました。
その後、待合室での様子をうかがった職員さんが、診察前は待合の椅子に寝そべるようにダラリと座っておられたのに、先程見たら見違えるような座り方だったと教えてくれました。
症状、年齢、単純X線写真の所見からは脊柱管狭窄症と診断されることが多いと思われる方でしたが、皆様はもうお気づきでしょうか。
この方の症状で鍵となるのは「立ち仕事をしている間は症状のことを忘れている」という点ですね。
たしかに、何かを一所懸命にやっているときには痛みやしびれを忘れるということはよくあることですが、本当にそれが何かに集中しているから意識していないのかどうかは実際に確認してみないとなんとも言えません。
一般の整形外科では腰部脊柱管狭窄症の患者さんの運動指導では「腰を丸める」という指導が一律になされます。
しかし、脊柱管狭窄症を思わせる訴えと画像所見であっても、マッケンジー法で実際に評価してみると腰椎を伸展するように姿勢を整えるだけでも足のしびれが改善する場合もあるのだということをお伝えできれば幸いです。