case_211 両膝痛

歩いているときだけではなく、じっと座っていても痛い時があります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両膝痛があるという60代男性のお話です。

糖尿病、高血圧の基礎疾患ある方ですが、いずれもコントロール良好のようです。2ヶ月ほど前から特にきっかけもなく右膝が痛くなりました。ずっと痛いわけではなく、時にビリっと来るような痛み方をするようです。
最近では左も痛くなってきたようで、ご本人は右膝をかばっているせいなのかなと感じています。痛い部位は両膝の内側、大腿骨の内顆あたりで、足踏みしていただくと5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。日常生活の中では立ち上がる時や、歩いている時などに痛みがありますが、じっと座っていても痛い時もあるようです。このじっとしていても痛い事があるというのは、マッケンジー法を評価法として実践している人はピンとくるところではないでしょうか。

お近くの病院で、この痛みに対してリリカ75mgとトラマール25mgを寝る前に飲むように処方され、一ヶ月ほどしても全く効果がないためリリカを150mgに増量ていますが両膝の痛みは変わらなかったようです。

単純X線写真では軽度の変性所見が見られますが、体を動かすのには何ら問題のない状態です。

膝の症状ですが、マッケンジー法では腰椎から評価を行います。

立位で腰椎の可動域を確認すると、中等度制限があるものの、膝の痛みを誘発するような動作はありません。

もう一度、その場で足踏みしていただいて右膝の痛みが5点であることを確認します。

立ったままで腰椎の伸展のやりかたをご説明し、まずはしっかりと腰椎を10回伸展してみます。

佛坂
佛坂

足踏みしてみましょうか……右膝の痛みどうですか?

B男さん
B男さん

あれっ、痛くないですね!

(EIS 10回 abolish B)

立ったままで腰の伸展をするエクササイズの注意点などご説明し、初回評価を終了しました。

それから1週間後。

2ヶ月ほど続いていた痛みがこの数日少し良いと感じるようになっています。
エクササイズはお約束のやり方で1日20セットくらいこなしているようですから優秀ですね。

引き続き同じエクササイズを続けていただいて2週間後、初診から3週間後になります。

だいぶいいようですが、現在は足踏みでは何ともないのですが、押すと少しだけ痛みがあります。まだ少しだけ痛みが残っていますが、最初は足踏みですら痛かったことをからすると、だいぶ良くなっているようです。

もう一度痛いところを確認してもらい、今は少しだけ押すと痛いくらいだということを確認しました。

いつもやっているエクササイズを1セットだけやっていただき、先程押して痛かったところをもう一度押してもらいます。

B男さん
B男さん

やっぱり体操のあとはいいです!

(EIS 10回 B)

B男さん
B男さん

本当にこれでいいのかと思ったんですよ…痛いのは膝なのに膝のレントゲンも撮らずに

佛坂
佛坂

ですよね。痛いのは膝なのにって思いますよね。そう思うのは患者さんだけじゃないんですよ。実はこういうことが起こるということを知らない医療関係者も多いんです

B男さん
B男さん

信じてよかったです

本当にそうだと思います。私自身、マッケンジー法を学び始めた頃には目の前で起こる手足の症状が首や腰の体操で改善することが信じられませんでしたから。

今回のお話で登場した痛み止めとして処方されているリリカプレガバリン)は神経障害性疼痛に対して、またトラマール(トラマドール)は慢性疼痛に対して処方されるお薬です。
プレガバリンは適応症が「神経障害性疼痛」に拡大され、またトラマドールは「慢性疼痛」という原疾患に関係のない包括的な適応症があるため、最近ではとても身近な痛み止めになりました。このブログを読んでくださっている皆さんのまわりで、足腰が痛くて病院にかかってお薬を処方されているお知り合いの中にも一人や二人は処方されているようなお薬です。

しかし、プレガバリンの添付文書には神経障害性疼痛に対する投与にあたっての注意事項として、「本剤による神経障害性疼痛の治療は原因療法ではなく対症療法であることから、疼痛の原因となる疾患の診断及び治療を併せて行い、 本剤を漫然と投与しないこと」と明記され、また、トラマドールの添付文書には、「慢性疼痛患者においては、その原因となる器質的病変、心理的・社会的要因、依存リスクを含めた包括的な診断を行 い、本剤の投与の適否を慎重に判断すること」と明記されています。

これらの添付文書の注意書きを読む限り、かなり慎重なプロセスで処方され、継続も慎重に行うべきお薬ということができます。

しかし、今回ご紹介した方の痛みのように、「痛くないときもある」というタイプの痛みは、痛みを伝える神経はむしろ正常に機能していて、なんらかのメカニカルな刺激で神経に無理がかかったときに、その刺激を受けないようにと危険信号を発している状態であって、末梢神経が障害されているために生じている痛みとは思えないのです。

実際、この方もこれらのお薬はその後も再開することなく、エクササイズのみで症状は良くなっていきました。

もちろん鎮痛剤を使うことを否定するわけではないのですが、本当にその鎮痛剤が必要なのか、まずはマッケンジー法により評価することの大切さを今回のお話からお伝えできれば幸いです。


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