case_173 右膝痛

ひねった記憶もないのに急に右膝が痛くなりました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は膝の痛みで来院した10代男児のお話です。

実はこのお子さん、3年前にも腰痛、それから間もなくして右膝痛で受診したことがあります。
当時、柔道を2〜2.5時間/日、週5日ほどしていましたが、姿勢が悪く、姿勢を整えることと、腰椎の伸展をしっかりと行うように指導したところ、速やかに症状は改善しました。

昨日、柔道の組み練習中にどうしてかわからないのですが、急に右膝が痛くなり、以後痛みが続くため来院しました。

右膝の前面に径10cmくらいの範囲に痛みがあると言います。関節の腫脹・熱感はなく、可動域は正常です。

座っている姿勢を見ると、以前と変わらず猫背です。

しばらく姿勢を矯正して保持してみましたが、特に変化はありません。

立っているだけで右膝の痛みは6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)です。

腰の可動域検査を行うと、屈曲(前屈)で5点、伸展(腰をそらす)8点、左右に腰をずらす動きで6点と腰の動きで症状に変化があるようです。

動きには問題ないので、まずは座った状態でしっかりと腰を曲げることを10回やってみます。

立っているときの痛みは6点、歩くときには8点とあまり変化ありません。

(FISit 10回 NE)

続いて、うつ伏せになってもらい、しっかりと伸展する動きを10回。
立っているときの痛み、歩くときの痛みともちょっぴりいいかもという感じのようです。

(EIL w/sag 10回 B? 立位5点 歩行7点)

さらにタオルで腰を押さえつけるように負荷を増やして10回伸展しましたが、あまり変かありません。

(EIL w/op バスタオル 10回 NE)

現時点ではこの動かし方が有効という決め手はないのですが、姿勢の悪さと、わずかばかりの症状の変化を考慮してうつ伏せで腰椎を伸展するエクササイズを選択しこまめに実施することにして、翌日経過を報告してもらうことにしました。

翌日。

まだ痛いようです。

立っているときの痛みは相変わらず8点です。

姿勢は……まだ姿勢は全く改善されていません。

座っている状態での痛みも6点。これらをベースラインにして、まずは昨日同様に姿勢を矯正して保持すること1分。

佛坂
佛坂

今どう?

D男くん
D男くん

今はあんまり痛くないです

昨日と異なり、今日は姿勢の矯正を続けるだけで、座っている状態での6点の右膝の痛みは消えてしまいました。
うつ伏せのエクササイズについては再度やりかたを確認しますが、症状に大きな変化はないようです。

姿勢の矯正による症状の改善がはっきりとありましたので、今回も引き続き同じエクササイズを続けてもらうことにしました。

それから4日後、初診より5日目。

すっかりよくなったようです。

前回来院した日の夜にはだいぶ良くなってきて、寝る前にうつ伏せのエクササイズをやって寝てから翌朝からは症状は消失しました。
現在は無症状となっていますが、エクササイズのポイントとこのお子さんにとって何より重要な姿勢の指導を再度行い卒業としました。

今回は最初に評価したときには姿勢を整えただけでなく、どのように動かしても症状にははっきりとした変化がなかったのですが、その翌日には姿勢を整えただけで症状が消えてしまいました。

このように、注意深く観察すると、同じことをやっても、症状の出方が変わることは少なくありません。

マッケンジー法では評価のたびに症状のベースラインをとって、そのベースラインがある姿勢を保持したり、運動負荷をかけたりすることでどうなるのかを確認します。
この細かいビフォー・アフターの確認作業により症状がどのようなエクササイズにより改善するのかを見つけていきます。