case_161 右母趾痛

外反母趾のところが痛くなりました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右母趾の付け根が痛くなり来院した10代男児のお話です。

以前から時々右母趾が痛くなることがありました。
この1〜2ヶ月、痛いと思う頻度が増えたようです。

といっても、ずっと痛いわけではなく、毎週土曜日にやっているボルダリングの時にだけ痛みます。
付き添いでみえたお母さんは、このお子さんが外反母趾なのに気づいていて、それが原因ではないかと思っています。

見るとたしかに右母趾が外側に向いていて外反母趾がありますが、出っ張っている部位が赤くなっているわけでもなく、またその部位を押して痛いわけでもありません。

しかしボルダリングのときにはやはりこの母趾の付け根が痛いのは間違いないようです。
立ち上がり、しゃがみ込み、ジャンプなどで症状が再現できませんので、次回のボルダリングまで何をするか決めなくてはなりません。

座っている姿勢は極端に猫背です。家では椅子とソファの生活ですが、お母さんから見るといつもそのようです。
そこで、しっかりと姿勢を整えるやりかたをご説明して、姿勢を良くすることだけを宿題にしてみました。

その一週間後。

先週末のボルダリングでは症状は全く変わらなかったようです。

佛坂
佛坂

姿勢は意識できたかな?

ちょっとためらったようにうなずきます。
姿勢は少しできたかなとの自己評価ですが、現在の座っている姿勢は相変わらず猫背の姿勢です。

どうやら姿勢だけで解決するのは難しそうな印象なので、ちょっと別のことをやってみることにしました。

腰の動きは全く問題なくできますが、可動域は屈曲(前かがみ)が少し硬く、指先が床から10cmほどまでですが、伸展(腰を反らす)はよくできます。あまり目立った制限や誘発される痛みもないため、猫背で丸まった腰を伸ばす方向をまずはしっかりとやってみることにします。
立ったままで腰を反らす体操を指導した所、体のブレがあって安定しません。そこで、うつ伏せになってしっかりと反らすやり方に切り替えて10回実施します。
腰の痛みや右足の痛みもなく、変化はありません。

(EIL w/sag 10回 NE)

宿題を出すときには、ある動きに対する良い反応があるかどうかを確認するだけでなく、今回のように症状に何ら影響がなくても、それを自宅で続けてもらっても安全であるかかどうかの確認をする意味で、必ず診察室で一緒に行ったことだけを宿題にします。

まだ効果があるかどうかわかりませんが、安全であることは確認できましたので、うつ伏せでしっかりと腰をそらす体操をできるだけやってもらうことにしました。

その週末のボルダリングでどうなるかをよく観察してもらうことにして、それから一週間後。

先週の土曜日のボルダリングでは右母趾の痛みはありませんでした。

姿勢は少し意識できたかな?という程度で、見た目は大きな変化はないような印象です。
エクササイズは朝夕にあわせて1日3セットくらいできました。

しかしたまたまそのときに痛くなかった可能性もありますから、もうしばらく同じ宿題でいきます。

それから1週間後。

佛坂
佛坂

この前のボルダリングはどうだった?

D男くん
D男くん

痛くありませんでした

佛坂
佛坂

ゼロだった?

D男くん
D男くん

はい!

先週土曜日のボルダリングでも右母趾の痛みは全く感じなかったようです。

姿勢は…少し意識できている感じがします。

姿勢を整えることと朝夕の腰椎伸展エクササイズはしばらく継続することにしました。

以前から時々痛かったという右外反母趾の部位の痛み。この1〜2ヶ月ほど増悪していましたが、腰椎を伸展するエクササイズで速やかに改善してしまいました。

もちろん、たまたま体操を始めたタイミングで自然に良くなった可能性もありますが、今回のように猫背のお子さんが姿勢を整えるだけで様々な部位の下肢症状が改善することが稀ではないことはこれまでの症例ファイルでご紹介してきたとおりです。

それでは、どうして足の痛みが腰を伸ばしてよくなるの?
そういう声が聞かれそうですね。
エビデンスに基づいた明確な医学的な説明はまだできませんが、そのような事実はマッケンジー法を実践している施設では日常茶飯事のように経験されます。

これまでにも無症状で来院され、ある特定のことをやるときだけに症状があるという患者さんについてマッケンジー法ではどのように評価していくのかをご紹介したことがあります。

今回もボルダリングのときだけという特定の動作でのみの症状でしたので、その間にどのようなことを続けてみるかということがポイントになってきます。

以前、ある患者さんが、病院に行ったときにたまたま症状がなく、診察していた医師から「症状があるときに来てください!」と言われたことがあると打ち明けられました。
病院のお近くでいつも家にいるならまだしも、そんなことが出来るわけありませんよね。

マッケンジー法では、詳しく伺った情報と診察所見をあわせて、どのような病態が潜んでいるのかを推測します。

もし何らかの生活習慣などが影響していると推測されるときには、それをもとにどのような運動負荷をかけてみるのかを考え、診察室で安全性を確認した後に特定の姿勢・エクササイズなどを次回来院までの宿題とします。
そして、次の診察までの間に起こった症状の変化をフィードバックしてもらいながら次に進む道を決めていくのです。