case_53 手指の腫れぼったさ

半年以上前から続いている朝起きた時に感じる両手指のこわばり感と痛み……腱鞘炎なのでしょうか?

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両手指の朝のこわばり感、引っかかり感と手指屈曲時の疼痛を主訴に来院された60代の男性のお話です。

最初にお見えになったのは2ヶ月ほど前でしたが、今回、1ヶ月以上たっておいでになったのは両膝が痛くなったことについて受診されました。

佛坂
佛坂

ところで、両手指の腫れぼったさと痛みはその後いかがですか?

B男さん
B男さん

もう、ほとんど良くなってます

2回めのフォロー以降来院されていなかったのですが、よくなっていると聞いてホッとしました。

そこで、今回の両膝の問題ではなく、両手指の腫脹、疼痛がどのように良くなったのかを振り返ってみましょう。

お仕事は現在は事務職ですが、昨年の11月からチェーンソーや草刈りなどの仕事を3月まで5ヶ月ほどしておられました。そのお仕事を始めて2ヶ月位した今年の1月ころから朝起きた時にこわばり感と痛みを覚えるようになりました。受診した当日もしっかり握ると特に左中指、環指の付け根あたりが痛みます。時にポキポキ音がするのを自覚しています。

なにやら腱鞘炎のような様相なのですが、マッケンジー法ではもちろん頚椎から評価します!

評価を進めて問題になりそうなレッドフラグは特に有りません。

単純X線検査の所見では頚椎に軽い変性所見を認め、病名としては変形性頚椎症と言えます。もちろん、マッケンジー法的には、レントゲン写真は必須ではないのですが、整形外科で単純X線検査が即座に実施できる環境で、また単純X線検査を行うことで予期しない重篤な病理をメカニカルな評価の前に見つけられる可能性もありますので、単純X線写真はできるだけ確認する方針としています。安全性を高め、ゴールに至るまでの道のりをより近道にする手段のようなものですね。

さて、頚椎の可動域をチェックすると、伸展(上向き動作)が重度に制限されています。

座位姿勢は不良で、頭部が前に出た猫背です。

(Protruded head +)

姿勢を矯正して保持してしばらくキープした後、再びグーパーしていただくと、幾分良いかなという感じのようです。

頚椎伸展の方向でしっかり、5回動かしていただきます。

佛坂
佛坂

曲げ伸ばしの感じどうですか?

B男さん
B男さん

さっきより痛くないです…

数値的にはまだ半分にもなったかどうかわからない状態なので、この初診の時点ではまだどのような分類かの結論は出せません。今回の評価で少なくとも動かすことの安全性を一緒に確認し、少なくともいい感触が得られましたので、ご本人と相談しながら自宅でしていただくエクササイズの宿題を決めて、数日後に来ていただくことにしました。

(処方エクササイズ RET+EXT 5回/セット、10セット/日)

そして、それから5日後。

佛坂
佛坂

手の感じはいかがです?

B男さん
B男さん

だいぶいいですよ

佛坂
佛坂

どのくらい?

B男さん
B男さん

前と比べて6割くらいかなぁ……

症状は改善しているようですが、手放しには喜べない、ちょっと微妙な改善ですね。

この程度の改善はあまりピカピカの青信号というわけではないので、まだ注意が必要です。

エクササイズのやりかたを再度チェックすると、よくありがちなのですが、しっかりと決めるべきポイントと最終域までしっかりと動かすことがやや甘くなっていることがわかりましたので、この点を再度指導します。

(処方エクササイズ RET+EXT 5回/セット、エンドレンジを意識して、10セット/日)

そしてその後、1週間後くらいに来ていただく事になっていましたが、再来されませんでした。

そして、今回、膝のことでおいでになった時にその後の経過をお聞きすることが出来ました。

両手指の痛みと腫れぼったさは……2回目のエクササイズ指導から1週間ほどエクササイズを続けた頃、ちょうど再来していただく予定だった頃には良くなってしまっていたようです。

半年以上続いている朝のこわばり感、手指の屈曲時痛、一部ばね指を思わせる症状…両手指腱鞘炎とも思えるような症状でしたが、結果は、頚椎のエクササイズのみで2週間もせずに症状は改善してしまいました。手指のエクササイズは何もしていないので、この2週間のうちに自然に腱鞘炎が良くなったとも考えにくいように思いますが、皆様はどう思われるでしょうか。このように手指の症状であっても、頚椎のメカニカルな刺激で症状が改善することは決して稀ではないのです。

そして今回の両膝痛を評価した結果は……また別の機会にお話しましょう。