case_30 足底の腫れぼったさ

腫れぼったいと言われるのですが、見た目はさほど腫れていません

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は50代後半、両足底の腫れぼったさのために来院された女性のお話です。

花栽培の農家の方です。私の考えていた花を育てるイメージとは違って、出荷する花をまとめて担いで運んだりする結構ハードなお仕事のようです。2年ほど前に腰痛でお近くの整形外科にかかったことがありますが、その頃から少し両足に違和感を覚えていました。腰の単純X線写真(レントゲン写真)を撮られて、靴を換えるようにと指示されましたが、具体的にどのような靴に換えればよいのかといったような説明は受けませんでした。その後も足の違和感が続き、昨年の春頃に別の整形外科にかかり、靴のインソールを作ったのですが、症状には全く変わりがなかったようです。

1年ほど前に花を担いで運ぶ仕事を2〜3時間した後に両方の前足部(足の趾先側)の腫れぼったさが強くなった自覚があったものの、その時は病院には行かずに放置。その後、時に症状が強いときにインソールを作った整形外科にかかっていたのですが、湿布などを処方されるだけでした。

実際に足底を観察すると、ご本人のいわれる前足部は多少はれぼったいようにも見えないことはないのですが、それほど著明な腫脹というわけではありません。ただ、色調がやや暗赤色調で正常な状態ではない印象です。

整形外科ですから単純X線撮影を行います。といっても足ではなく腰椎です。腰椎すべり症(すべり、L4/5 Meyerding II度)を認めますが、屈曲・伸展の動態では動揺性はごく軽度です。

もちろん、すべり症があるからという理由でマッケンジー法での評価をしないことはありません。
このレントゲン撮影を行う目的は、高度の不安定性や重篤な病変がある場合など、明らかにメカニカルな評価が不適切と思われる状態ではない事の確認をしてより安全に評価を行うためです。

評価を続けるにあたりレッドフラグはありません。

可動域検査では、屈曲は指先が床に届く程度には曲げられます。
伸展は重度の制限があり、同時に両膝の後側に突っ張ったような感じが出現します。
側方の動きは正常範囲で問題ありません。

日常生活の問診ではどちらかというと動き回っておられて、座りっぱなしではないようですが、どちらかというと腰を折っての作業が多いような印象で、伸展制限が著明な事もあわせて、今回は伸展から攻めることにしました。

姿勢矯正保持では特に変化無しです。

診察台の上で腹臥位になっていただき、腰をそらす動きをしていただくと、左腰に痛みが出ますが、戻ると元通りで特に変化有りません。(EIL produce 左腰痛 NW)

途中で痛くなっても戻ったら元通りの場合は注意深くモニタリングしながら進んでみます。黄色は注意して進めというルールです。

同じ伸展運動を繰り返していただきました。すると、腰痛はだんだんと軽減していき、10回終わってうつ伏せの状態のまま両足の症状をうかがうと少し足底のしびれ感に何やら変化を感じています。

(反復EIL 10回 腰痛は反復とともに軽減 better? 両足底のしびれ感変化)

立っていただき、腰椎の伸展をしていただくと、先ほどあった両膝の後ろ側のつっぱり感は消失しています。

これはあまりはっきりした症状ではなかったのでベースラインにはとっていなかったのですが、症状の改善と捉えて良いと思います。

再び腹臥位になっていただき、伸展運動を少し負荷を上げて反復すること10回……

佛坂
佛坂

腫れぼったい感じはいかがですか?

A子さん
A子さん

半分くらいになりました!

(反復EIL w/sag 10回 better 両足底のはれぼったさ半減)

おおよそ伸展で良さそうな印象でしたが、日中は寝そべってのエクササイズは難しいため、立位での伸展運動も効果があるか確認し、これもエクササイズに加えて初回セッションを終了しました。

そして2日後……。

A子さん
A子さん

だいぶ良いです!

とニコニコ顔です!

エクササイズはかなり頑張ってバッチリとやって来られたようです。その証拠に、今日は大胸筋(胸の筋肉)の痛みがあります。
この筋肉痛が起こるほどにエクササイズをしっかりとやっている方は結果がはっきりと出ることが多いようです。
新しい筋肉痛は目標とするエクササイズ達成度の指標になるとも言えます。

初診の日からすでに立ち上がり時などの腰痛はなくなっていて、昨日からは前足部の腫れぼったさもかなり改善している自覚があります。

自覚症状だけではなく、足底の色調も暗赤色調だったのが普通のピンク色になって、足先の厚みも少し減ったように見えます。これは本人だけでなく、一緒に見ていた外来看護師2名も「ホント、最初はあんなにどす黒い感じだったのに、ピンク色になってる!」と私の贔屓目ではなさそうです。
このように脊椎の刺激で末梢の循環状態が改善するという現象は、実は決して稀な出来事ではありません。
おそらく多くの認定セラピストの方々が経験していると思います。

一年も続く両前足部の腫れぼったさ。一般整形外科から見ると、やや診断に苦慮する病態でしょうか。
今回は症状のある前足部ではなく腰のメカニカルな刺激(動かす負荷をかける)により症状が明確に改善しました。
このような診察法はマッケンジー法による評価を知っている人から見るとなんら特殊なことをしているわけではありません。

四肢の症状を、そのローカルな所見からではなく、脊椎から順にシステマティックに評価していくというマッケンジー法のアプローチの仕方がいかに優れているかを皆様にお伝えできれば幸いです。