case_27 腰痛

マッケンジー法認定資格を持っている人間でも腰痛になる?

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は腰痛、50代の男性です。

実は今回は自分の腰痛レポート。
マッケンジー法認定資格を持っている人間でも腰痛になることはあるんですね〜と笑い声が聞こえてきそうですが、もちろんみなさんと同じ人間ですから。

思い出せる比較的程度のひどい急性腰痛はもう数年以上前になります。まだマッケンジー法については講演で聴いたり、文献で読むくらいしか勉強していなかった頃にぎっくり腰になった事がありました。その際、自らの腰を使ってマッケンジー法を試してみようと、マッケンジー法として世によく知られているうつ伏せで腰を伸展する体操をやってみたんです。認定セラピストの皆さんはもちろんのこと、私の症例ファイルをこれまで読んでいただいた方にもすでにおわかりと思いますが、このような「腰痛には腰の伸展エクササイズ」というのは間違いです。しかし、そのエクササイズで幸いにも腰痛が改善し、その後も腰に負荷がかかるときなどは腰痛になる前に伸展エクササイズをすることで、腰痛予防が自分でできるようになりました。

マッケンジー法の認定資格を取得している今の自分からみると、たまたまエクササイズが自分の腰痛に合っていて良くなっただけなのです。悪くなるタイプだったら大変なことになっていたかもしれないばかりでなく、今頃マッケンジー法とは無縁の人になっていた可能性だってあるわけで、知らないということはなんとも恐ろしいことです。

さてそんな腰痛フリーの日々を送っていたのですが、ゴールデンウィーク中にマッケンジー法講習会の再履修に参加させていただいて帰ってきた翌日から、軽い腰の違和感程度の痛みを覚えました。
講習会途中では結構意識して座りっぱなしにならないようにストレッチをしてきたつもりだったので、これが足りなかったのかとばっちり伸展エクササイズを繰り返し、寝る前もバッチリ伸展エクササイズを繰り返してから休みました。

これでよし。念のため、腰の下にタオルを入れて腰椎の伸展を意識した寝方もしつつ就眠。夜中に痛みで目がさめることなどありませんでした。

そして、その翌朝。起きる時、あれっ、まだ痛い……というか、昨日より悪い。
昨晩のエクササイズが足りなかったのかと日中も引き続き診察の合間にこっそりと伸展エクササイズやってみましたが、今ひとつパッとしません。負荷を上げないといけないのかな……などと考えていましたが、その夜、洗面で前かがみになろうとした時に前かがみがしづらく、あっ!とここで気づきました。

そう、もうすでにお気づきの認定セラピストの方もあろうかと思いますが、今回の自分の動かすべき方向(DP、derectional preference: derangementという分類でみられる動かすと良い反応が得られる方向)は伸展ではなく、屈曲だったんでは……。
さっそく部屋で寝転がって屈曲エクササイズ(FIL)繰り返すこと10回、起き上がって屈曲・伸展してみると……痛みが消失していました。
患者さんの評価では冷静に見ていたのに、自分のメンテとなると以前の経験と発症の時期にやっていたこと(長時間の座学)から自分のやるべきエクササイズを今回も同じだろうと決め込んでしまっていた悪い例です。

マッケンジー法認定セラピストの投稿で、エクササイズ経過中に悪くなった症例について話題になりましたので、それにあわせて、DPは常に変りうるという事を忘れてはいけない、毎回、毎評価ごとにベースラインチェックとビフォー・アフターをチェックし方向性の再評価を続けるという原則を忘れてはいけないという意味も込めて、症例というほどの症例ではなかったのですが提示させていただきました。

繰り返しになりますが、全ての腰痛に伸展エクササイズが良いわけではないことも皆さんにお伝えできれば幸いです。

もちろん、その後の経過は良好で、数セットの反復FILをして1日と経たないうちに完治に至りました。

皆様のご参考になれば幸いです。