case_22 腰痛・左足しびれ

寝ていても立っていても一日中変わらない左足趾のしびれがあります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は60代後半の女性、腰痛と左足趾のしびれがあって来院された方のお話です。

診察室に入っていただく時にはさほど歩き方が悪い印象ではなかったのですが、猫背で姿勢が悪いのがわかります。
お話を伺ったところ、30歳ころに腰痛を覚えた頃から自分では椎間板ヘルニアだと考えていたそうです。
10年以上前に左足趾のしびれを覚えるようになり、整形外科にかかって単純X線写真(レントゲン)を撮ってもらい、腰椎椎間板ヘルニアと言われました。
しかし、単純X線写真で椎間板ヘルニアが診断できると思えませんから、おそらくその可能性を指摘されたのでしょう。

日頃、椅子に座る生活が多く、草取りはよくするようです。

寝ていても立っていても一日中左足趾のしびれは変わったことがないので、このしびれは一つのベースラインに使えそうです。このしびれを10/10とします。しっかり立ってしまうと腰痛はゼロになるようですが、屈曲(前屈)などの動作で動きの途中で痛みが出るようです。程度は軽く、はっきりしませんが、一応意識して診察します。

整形外科ですから単純X線写真も撮影して確認します。これは必須ではないのですが、高度の骨粗鬆症や腫瘍の骨転移など体を動かす負荷をかけるメカニカルな評価をするにあたりレッドフラグ(禁忌)を排除できるメリットは大きいため、撮影しています。変性すべりの軽度不安定性などありますが、レッドフラグなしです。

立っていただいてもやはり少し腰が引けてる感じでしたが、自宅で座るように椅子に座っていただくと腰が丸くなってる感じで座位姿勢も不良です。

仰臥位で寝ていただきます。これは影響ありません。
膝を立てても変化なし。しびれは10/10のままです。
膝を思いっきり抱え込んでいただくと、腰痛がでます。また腰を伸ばして戻るときも痛みがあるようです。

今度はうつ伏せでじっと休んでいただきます。足のしびれに変化はありません。
次に肘をついてパピーポジション(子犬のような格好、puppy position)をとっていただき、1分ほど持続していただきお尋ねすると……

佛坂
佛坂

足趾のしびれはいかがです?

A子さん
A子さん

軽くなってます!いつもの3割くらいになってます!

良い印象なので、さらに続けます。

両手をついたまま上半身を持ち上げる(腹臥位での腰椎伸展動作、EILと表現します)と、腰痛がありますが、戻ると元通り、しびれには変化なしです。

(P-NW、produce 腰痛 → not worse)

70歳近い女性ですから、まずは控えめに同じ動きを5回続けていただきます。
すると……反復とともに腰痛は軽減している事を自覚されました。

(EIL反復、反復とともにPDM軽減)

しびれの方は……1/10まで改善しています!

もう一度座って、腰椎の前弯を保った座位姿勢をキープしていただきます。さきほどよりは少ししびれがまた戻ったかなという感じですが、2/10くらいでキープできています。
そのまましばらくお話していると、

A子さん
A子さん

こんなにへそを前に出してはいけないと思っていました…

どこで得られた知識なのか不明なのですが、腰を反らし過ぎてはダメだという思い込みがあったようですね。

しばらくすると、自分で足趾を動かしながら、左足趾の開きが良くなった事を自覚されました。

腰椎椎間板ヘルニア」という診断名に縛られ10年以上、寝ても起きても変わらなかったと言われる足のしびれが30分としない間に改善したという事実をご本人に再認識していただき、病名がどうだということよりも、症状を改善することができるかどうかの方がより重要だという事を意識していただけたようです。姿勢指導と腰椎伸展エクササイズなどを宿題にして注意点などご説明し、数日後にもう一度来ていただくことにして初回セッションを終了しました。

「歳のせい」とか「病名が……」とかいう考えから患者さんを開放することもまた、マッケンジー法を通して患者さんに提供できる重要な治療の一つと考えています。