case_11 右上腕痛

座る姿勢がとても悪い状態です

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
右上腕痛、右小指しびれの症状で来院した50代男性のお話です。

2ヶ月ほど前に鉄板に挟まれる事故に遭い、多発肋骨骨折などの外傷歴があります。症状は当初は他の痛みが強すぎて気づかれていなかったようですが、入院中より症状はあったようです。

診察の際に医療面接は非常に重要なんですが、マッケンジー法を学んでからは特に入念にお話を伺い、その人の一日の生活状況がイメージできるように心がけています。

この方は自宅でほとんど座りっぱなし、ソファか椅子とのことですが、どちらかというと背もたれが腰より少し上くらまでしかない椅子に座ることがほとんどのようです。

まずはいつも座っているように自然に座っていただきます。
見るとかなりの猫背で姿勢が悪いのがわかります。
自分でできる範囲で良いので、少し姿勢をよくして座ってみてくださいと促してみます……ほとんど変りません。
たまたまご家族もご一緒でしたので一緒に観察してもらってますが、ご家族から見ても姿勢はいつも悪いと言われますので、どうやらいつもの座り方が再現できています。

まずはその状態で、右肩を前方挙上(右手を前から上げる)時の右上腕の内側の痛みと動作に関係のない右手掌尺側(手のひらの小指側)から小指のしびれをベースラインに評価をはじめます。

いい姿勢のポイントをご説明して、出来るだけ良い姿勢をとってもらいます。ご家族から見てもかなり良い姿勢に見えるところまで矯正できています。

そのまましばらく姿勢保持を続けていただき、他のお話などしながら30秒ほどしてから右小指のしびれ感についてお伺いすると……すでにしびれ感は小指の指尖部のみに追いやられたように小さな範囲のしびれに変化しています!

さらに、右肩を前方に挙上していただくと……上腕の内側にあった痛みも激減していることを自覚されました!

この間、やったことは姿勢を矯正して保持していただいただけです。これだけで症状のほとんどが気にならないレベルになりましたので、姿勢に気をつけることだけを宿題にして初回の評価を終了しました。

マッケンジー法を知らなかった頃の私でしたら、おそらく姿勢には全く目を向けないまま頚椎のMRI検査などした後、鎮痛剤など処方して経過観察というパターンだったに違いありません。

その昔、あるラジオ番組でロビンマッケンジーがパーソナリティーに「あなたが患者さんにもし一つだけ伝えることがあるとすればなんでしょうか?」と質問されて、「Posture!(姿勢です!)」と答えたのだそうです。

姿勢がいかに大切なのかを今回の症例から多くの皆様にお伝えできれば幸いです。