case_2 腰痛・左臀部痛

一年来の腰痛、左臀部痛、左下腿外側のしびれ

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。

今回は腰痛、左臀部痛、左下腿外側のしびれがある20代男性、以前ローテートで回ってきてくれた整形外科医師のお話です。

普段ニコニコと活発に動き回り、頑張ってるので、まさか腰痛持ちとは知らず放置状態…そう言われてみるとちょっと歩き方がややぎこちなかったかな…という程度でさほど痛そうに見えませんでした。

発症はなんと1年も前で鎮痛剤も常用している状態で、ひどい時はロキソニンなどのNSAIDs(消炎鎮痛剤)のみならず、リリカ75mgを一日3〜4回も内服していました。

野球大会の最中に徐々に痛くなり、以後、立っている時の痛みが全くなくなることはなかったようです。以前勤務していた某病院で腰のブロック治療を受け3日ほどよかったようですが、その後、症状はまた元通りになり、以後全く改善なし。
整形外科医ですから手術中の立ちっぱなしでの前傾姿勢などかなりきつかったようです。

立ち上がりや前屈はかなりきついようですが、仰臥位で寝ているときは疼痛はゼロになるという有用な情報が得られました。
この、ある姿勢やある動作の時には全く症状がないという状態があるというのはとても重要な所見です。

実は以前MRIで腰椎椎間板ヘルニアを指摘されているようで、主訴からもそれらしいとは察しがつくのですが、マッケンジー法ではヘルニアがあるからという理由で評価のアプローチは変わりません。
ちょうど、研修医の先生も見学に来てくれたので、マッケンジー法による評価の流れを教えるのに絶好のチャンスです。

姿勢は腰椎の前弯が減少していて少々姿勢が悪くまっすぐに立てていません。
可動域のチェックでは前屈(腰椎では屈曲と表現します)は40°くらい、両手で太ももを支えながらでないと、とても元に戻れません。顔を洗うときは前屈出来ないため、スクワットのように上半身を下げて洗っていたようです。
後屈(伸展)は30°程度で左腰痛がありますが、前屈ほどではありません。

この可動域制限は評価のためのベースラインに使えそうです。

立位での屈曲では左腰痛が増強されますが、もどると元通り。
伸展でもやはり増強されますが……何度か反復していくと痛みは軽快してきました!
下腿のしびれには特に変化なしです。
日常生活習慣の問診とあわせると、伸展方向のエクササイズが有効なように思われます。
伏臥位での10回続けて伸展してから再び立位をとってもらい、ベースラインの変化を確認します。
伸展すると、かなりやりやすくなった自覚があります。屈曲すると……まだ著明な変化ではないですが、自覚的にはかなり屈曲しやすくなったようです。

身内でもありガタイの良い先生なのでさらに攻めていきます。

伸展時にさらに負荷を増やして10回、さらに手の付く位置を手前にしてより負荷をかけて伏臥位での伸展10回追加。もう汗だく状態で頑張ってくれてます。

もう一度立ってもらい腰痛の具合を確認すると、おやっ……さっきまで立っているだけで痛かったあの腰痛はありません!
立位での前後屈がかなり楽になっていることも自覚しています!

さらに両手の下に厚みを入れて高さを上げ負荷をバッチリかけつつ10回……再びベースラインの変化を確認します。最初、前屈すると両手で太ももを支えないと体を起こせなかったのが、手を離して普通の前かがみが出来るようになりました!
腰をそらしながら、「うわ〜っ、こんなに上が向ける〜〜っ!」と本人もびっくり状態。

エクササイズのやり方、回数などと、注意点を指導し、椅子の腰掛け方、自宅・職場でのエクササイズの方法など再度確認し、第1回めのセッションを終了しました。

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第2回目の診察は初回評価から5日目になりました。

最初に診察してから3日後に本人(新郎)の結婚披露宴があり、私も出席してきました。
新郎の学生時代に結成したバンドの余興で、彼はボーカル担当、力強い歌声を聽かせてくれました!マイクを持って動きの激しいステージを見てると、ホントに腰が痛かったのかな〜という感じです。

披露宴後、腰痛の具合を尋ねたところ、本当に楽になったとのことでした。
さすがに披露宴と2次会のハードな2ステージを終えて、多少痛みがぶり返したようで、リリカを一回だけ飲んだようですが、以後、エクササイズのみでロキソニンやリリカなどの服薬は一切していません。本人も薬漬けだったのが信じられないという表情です。

さらに、下腿のしびれもすでに無くなっていて、立位の姿勢もとても良くなっていて自覚的にも姿勢が良くなったのが分かるようです。もともと体が硬いのですが、屈曲(前屈)60°から伸展(腰を反らす)45°での腰痛はすでにゼロで、もちろん楽に体を起こせるようになっています。第2回めのベースラインとしては、負荷を強めに腰を伸展するとかろうじて左殿部にピリピリする感じがあるくらいです。足先に痛みが広がる感じもなく、負荷の上げ方と立位での伸展エクササイズの工夫と注意点など指導して2回めのセッションを終了しました。

実は披露宴のステージで頭を激しく動かしすぎたようで、後頚部痛が新たに出現しておりましたので、あわせて頚椎も評価。長くなるので詳細は割愛しますが、こちらも初回セッションで伸展(上を向く)30°で後頚部痛ありの状態から、評価、エクササイズ指導後、伸展制限は消失、後頚部の軽い張ったような感じのみとなり、ほぼ症状はなくなりました。

ロキソニン、リリカなど大量に常用しなくてはならなかったほどの症状が1年間も続いていた腰痛患者とは思えないレスポンスの良さです。

そしてそれから1ヶ月もした頃には完治したことを確認できました。

そしてこのお話には嬉しい続きがあります。

この腰痛と下肢痛が完治した若い整形外科医は自らの体験からマッケンジー法に興味を持ち、自ら国際マッケンジー協会認定資格の取得を目指すことを心に決めてくれました。

彼がどんなマッケンジー法使いの整形外科医になっていくのか…今から楽しみです。