不意に手を挙げるときに右肩がズキンと痛む
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は2週間ほど前から右肩が痛くなったという30代女性のお話です。
肩の痛みにも様々な痛み方があると思います。じっとしていても痛いのか、じっとしていれば大丈夫だけれども少しでも動かすと痛いのか、あるいはある特定の動きだけが痛いのか……など。
可動域を確認すると、特に左右差はありません。
いろいろと動かしていただき、現在の症状は右肩を前方から回すように挙上したときに右肩に6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあることを確認できました。
まずは頚椎の可動域を確認しますが制限はありません。
姿勢を矯正して保持した後に痛みを確認しましたが、痛みの出方に変化はありません。
(姿勢矯正保持 NE)
伺った情報などから比較的負荷を上げた頚椎の伸展をまずは1回。気分の不良などないことを確認して、そのまま5回続けていただきます。
右手を上げてみましょうか
おっ、少し痛みが軽くなってます!
さっきは6点くらいでしたが、今は何点?
3点くらいです
(RET+EXT w/op self 5回 B)
さらに5回続けます。
もう一回右肩の痛みを確認してみて下さい
さらに深く右肩を回すことが出来るように見えます。
お〜っ、1点くらいになりました!……でも、まだ右肩の外側は痛いです
外側は何点くらい残ってます?
5点くらいかな
肩の前の方の痛みと外側の方の痛みは別々って感じがします?
そんな感じですね〜
(RET+EXT w/op self 5回 B 前方痛 1点 外側痛 5点)
肩の前方と外側との痛みは別々な感じがするようです。このような本人の感じ方は細かく伺うと、どの症状がどのように良くなっているのかが判断しやすいのです。
さらに負荷を上げるやり方を指導をして5回追加します。
もう一度右肩の外側痛みを確認してみましょうか
あっ、外側の痛みが減りました……2点くらいかな
さて何が悪かったと思います?
首……姿勢ですか?
そのとおりですね!
(RET+EXT w/op self 5回 さらにER意識して B 外側痛 2点)
姿勢やエクササイズなどご説明し、初回評価を終了しました。
それから2日後。
だいぶいいようですが、初診のときにも良い反応が出にくかった外側がまだ痛いようです。
エクササイズは一日3〜4セットくらいで、回数・セット数などはあまり問題ないように思われます。
フォローアップ時点でのベースラインを確認します。右手を挙げる時、前方の痛みはすでにありませんが、外側の痛みはまだ8点です。
エクササイズのやり方をチェックします。
まずは自分でやっていたやり方で5回。
そして右肩の痛みを確認すると、わずかに改善しますが7点どまりです。
そこで、しっかりと伸展するためのポイントをご説明して、もう5回やっていただきます。
もう一回上げてみましょうか
おおぉ〜〜っ!
何点くらい?
4点くらいになりました!
このくらい変化があると、本人にもわかりやすいようです。
というわけで、もう少し頚椎のエクササイズで経過を見ていくことになりました。
ちょっと見たところでは、ほとんど同じエクササイズのように見えますが、負荷をかけるポイントを意識して「しっかり」とやりきることで違いが出てきます。
同じエクササイズでも、この「効かせ方」が人によって微妙に異なり、それぞれの患者さんにあわせたカスタマイズが入ります。
必要なエクササイズを患者さんとの共同作業で見出していくプロセスがあることを知っていただくと、マッケンジー法がただのストレッチや体操法ではない事もお伝えできるでしょうか。