case_313 左膝痛・両示指痛

左膝と両示指のしびれ・痛みがあります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝の痛みで来院した70代女性のお話です。

70代といっても現役で清掃のお仕事を月に17〜18日しているというお元気な方です。
一年ほど前に右膝骨折で内固定する手術を受けたことがあります。その後、右膝をかばっていたためか、左膝の痛みを覚えるようになりました。清掃の仕事をしていると徐々に腰が痛くなり、それに前後して左膝も痛くなるようです。仕事がお休みのときには左膝の痛みはあまり意識しません。しかし、痛いときには左膝の内側に10点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、腰も痛いときには10点の痛みがあるとのことで症状には波があるようです。

整骨院に週に2〜3回通っていて、かかった直後は症状が改善するものの、また痛くなることを繰り返しています。

受診当日は仕事が3日ほどお休みの後なので、腰も左膝もほとんど痛くない状態で来院しました。

単純X線検査で左膝関節の変性が確認できました(左膝内側OA KLグレード2 ※日本リウマチ学会の変形性膝関節症のページへのリンクです)

いろいろ動いてもらい、足踏みで左膝内側に3点の痛みが再現できることを確認しました。現在の症状をいろいろとお伺いしていて分かったのですが、それに加えて、両示指の付け根(示指基節部)にじんじんしたしびれもあるようです。そこで、1)足踏みでの右膝痛3点に加えて、2)両示指基節部のじんじんしたしびれもベースラインにして評価を続けることにしました。

姿勢を矯正して保持してみましたが、ベースラインの変化はありません。

続いて座った姿勢のまま、下位頚椎から腰椎までしっかりと伸展し緩める動作を繰り返してみました。

佛坂
佛坂

今、指のしびれはどうです?

A子さん
A子さん

ないですね

佛坂
佛坂

全然?

A子さん
A子さん

右は全然無いですね…左は…少しあるかな

(SOC 5回 B 母指のしびれ改善)

立ってもらい先ほどと同じように足踏みしてみます。

佛坂
佛坂

さっきの3点の痛み、今はどうです?

A子さん
A子さん

軽くなってます

佛坂
佛坂

何点くらい?

A子さん
A子さん

1点かな

座ったままでの伸展運動で症状が軽快していますが、仕事中は座っていることはあまりないので、立位でできる腰椎伸展のやり方と注意点などご説明して5回。

佛坂
佛坂

足踏みしてみましょうか

A子さん
A子さん

痛く無いです

佛坂
佛坂

全然?

A子さん
A子さん

ん〜…1点かな

(EIS 5回 B 左膝痛 3→1点)

エクササイズのやり方と注意点などご説明し初回評価を終了しました。

それから3日後。

階段を降りるときにはまだ痛いようです。左示指は時々疼くことがあるのですが、診察室では痛みしびれはありません。右示指は前回来院する前までは曲げにくかったのが曲げやすくなってグーができるようになったようです。

エクササイズをどのようにやっていたのかをチェックします。

座位でのエクササイズ、立位のエクササイズもそれなりにできていますが、よりしっかりと動かす動かし方などを追加でご説明しました。

(SOC、EIS継続)

そして3回目の受診日、初診から14日目になります。

A子さん
A子さん

膝は全然痛くなくなりました

昨日、動き過ぎた後に少し痛かったくらいだそうです。

佛坂
佛坂

人差し指の痛みはどうです?

A子さん
A子さん

まだ少しは痛いんですが、だいぶ動かしやすくなりました

痛みはゼロではないものの曲げ伸ばしして見せられます。

エクササイズはかなり頻繁にやっているとのこと。
実際にエクササイズのやり方を確認すると、前回のご説明した内容を忠実に実施されていることがわかりました。追加の指導は何も要らなそうです。今後のエクササイズのことなどご説明し卒業としました。

今回のお話、いかがでしたか?

右膝の骨折手術の後に右膝をかばったせいで左膝が痛くなったと思って来院し、メインの目的ではなかった両示指のしびれ・痛みと動かしにくさについても評価の中で経過を見ていったところ、左膝の症状が改善すると同時に、以前からあったという両示指のしびれ・痛み・曲げにくさについても改善してしまいました。

実はこのようなことは稀ではありません。治療のターゲットとする症状は患者さん自身が最も気になっている症状が中心なのですが、処方するエクササイズは脊椎の比較的広い範囲を同時に動かす運動となることが多く、それを継続するうちに、他の症状まで改善してしまうこともあります。複数箇所の症状がある場合、一番気になる症状をターゲットとして評価・治療を進めていき、その症状が改善した後も次に気になる症状がまだ解決せず残存している場合は、次の症状についての評価を進めていくという手順になります。そうすることで患者さんが宿題として実施するエクササイズが最小限となり、効率の良い評価と治療ができるのです。