10年来の腰痛と下肢しびれ
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は10年来の下肢症状が最近増悪してきたという70代女性のお話です。
70代といっても人気のお弁当屋さんでほとんど休みなく働いているお元気な女性です。お弁当屋さんを始めて22年。10年ほど前くらいから、お弁当つくりなどでずっと立っていると両大腿の痛みを覚えるようになりました。整形外科にかかったこともあるのですが、腰椎すべりがあり歳のせいなので治らないといわれ、あきらめていました。その後、我慢して仕事は続けられていたものの、徐々に立っているのが辛い状態になり、高血圧でかかっている内科でそのことを相談したところ当院をすすめられ受診となりました。
今は腰痛より右脚の痛み・しびれが気になっています。症状は軽い時で足の裏と下腿遠位外側あたりの痛みと痺れですが、長く立っていると右大腿にまで広がってくる感じがあります。
症状は長く立っている時、立ち上がる時、買い出しに出て長く歩いている時などに痛みが強くなるようです。仰向けに寝ていて足を動かす時にも痛みがあります。
以前は午前中は症状がさほど悪くなかったのですが、最近では朝から痛みがあります。痛みが強くなると座ると多少楽になる感じがします。
単純X線検査ではたしかに軽度のすべり(L3/4)が確認できました。
お話を伺っている印象では症状が腰が伸びているときに悪くなるようなパターンのように見えますので座位のままで姿勢を変えて確認してみます。
座っている状態で姿勢矯正して右足の症状を症状を伺うと、右足の痛みが強くなるのが確認できました。楽にするとまた元通りです。
(姿勢矯正保持 I-NW)
今度は座ったままで腰を丸めるように1分ほど座ってみます。

脚の痛みはどうです?

今は痛みは楽になりました
またいつものように座ってもらうと、脚の痛みが戻ってきます。
(骨盤後傾 D-NB)
腰椎の可動域の確認をしてみます。
前屈してもらうと両方の太ももが痛みます。
そのまま今度は腰をそらして伸展してみると、

これは痛くないですね…

さっきと比べて?

そうですね
戻った後も少しいいようです。
(ROM 屈曲 両大腿痛P 伸展 D-B?)
意外に伸展する方向で症状が改善する感じがありましたので、そちらの動きをもう少し繰り返してみることにしました。
立っている状態での両大腿痛の痛みを6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)をベースラインとします。
お仕事で立ちっぱなしのようなので立ったままでできる立位での腰椎伸展のやり方をご説明し、10回続けてみます。途中特に痛みが強くなることはありませんでした。

太ももの痛み、さっきは6点でしたけど、今はどうです?

だいぶいいです、今は3点かな
(EIS 10回 B 両大腿痛 3点)
症状の改善傾向が確認できましたので、さらに10回続けてから伺います。

太ももの痛みどうですか?

今は……ないかも
しびれはまだありますが、軽減した感じがするようです。
(EIS 10回 abolish B 両大腿痛 0点)
今回は最初の予想から少し違う展開になりました。
立ち仕事でだんだん悪くなるという情報は、どちらかというと腰椎の屈曲方向の動きで改善することが多いのですが、可動域検査をしているところで少し予想に反する反応でした。そこでその可動域検査の結果に基づき伸展方向の動きを反復してみたところ症状はその場でかなり改善してしまいました。
ネット検索で「立っている、あるいは歩いているときに脚が痺れてきて座って休むと良くなる」という症状を検索すると、おそらく「腰部脊柱管狭窄症」の解説のページがいくつも出てくるでしょう。そして自分でできる体操として主に腰を丸める体操がいくつか紹介されていると思います。
この方も症状と単純X線写真の所見から、腰部脊柱管狭窄症の可能性が高いと思われます。しかしこの方をマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)により評価した結果は、意外にも腰椎の伸展運動の反復で症状が改善しました。
MDTではこの病名ならこの体操というような単純な考え方はしません。
個別に症状をうかがい、その症状がある動きに対して良くも悪くもどう反応するのかを確認して症状を改善するのに最適なエクササイズを見つけていきます。
