変形性膝関節症の診断で痛いときに注射治療を受けてきました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法（MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます）による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は8年ほど前から時々左膝が痛くなるという70代女性のお話です。
70代と言っても基本的にお元気な方で、清掃のお仕事を1日3時間、週5日こなしています。
8年ほど前から左膝の痛みを覚えるようになり、近くの整形外科にかかったところ、左膝の変形があると言われて膝関節の注射治療をうけました。以後、時々左膝の調子が悪くなっては同じように注射治療を受けていたのですが、今回はあまり効果がなかったようです。
左膝が痛い時は7点（考えうる最大の痛みが10点満点として）、痛くない時も3点くらい痛いとのことでしたが、今日は調子が良いようで、歩く様子はあまり痛いようには見えません。椅子から立ち上がる時や、その場で足踏みしても全く痛みがありません。
しかし、しゃがみ込みが完全にはできず、左膝の内側に6点の痛みが再現できました。
姿勢はさほど悪いようには見えませんが、まずは姿勢を過矯正して1分ほど保持してみます。特に痛みが誘発されることもありません。
さっきと同じようにしゃがんでみましょう
さっきより痛くないです
（姿勢矯正保持 B しゃがみこみ 3点）
まだ完全にはしゃがめない感じですが痛みが変わったことを自覚するには十分な変化でした。
今は膝はさわりすらせずに座り方を変えただけですよね？それで膝の痛みが変わったんですから、腰に関係ありそうですね！
座った状態で反復して腰椎を中心にした脊椎伸展を繰り返してみましたが、しゃがみ込みの痛みにはあまり変化がないようです。
（SOC 10回 NE）
そこで立った状態でよりしっかりと腰椎の伸展を繰り返してみます。
やり方をご説明して数回ほど伸展したところで、
今、左膝にビリッときました
さらに2回ほど伸展してみましたが、膝に響いたのは1回だけでした。
5回伸展したところで中止して、症状の変化を確認します。
しゃがんでみましょうか
……さっきより痛いかも…
しゃがみ込みがややしづらそうに見えます。
（EIS 5回 W？）
そこで、また座って座位での脊椎伸展を10回繰り返してから、もう一度しゃがんでみます。
だいぶ痛くないです
何点くらい？
1点かな
（SOC 10回 B）
さらにあと10回。
しゃがんでみましょうか
大丈夫です！
大丈夫っていうのは、痛くないってこと？
今は全然痛くないです！
（SOC 10回 abolish B）
今度は完全なしゃがみ込みできています。
エクササイズのやり方のご説明をして初回評価を終了しました。
これまでブログをご覧いただいているセラピストでMDTのことをあまりご存知では無い皆さんには今回の評価についてはちょっとわかりづらいところがあったかもしれません。
座位と立位での腰椎の伸展運動を反復してみた結果が違う、実はこんなことは稀ではありません。
狙っている方向性は同じでも負荷のかけ方を変えることをマッケンジー法（MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます）ではForce Alternative（FAと略して表記されることもあります）と呼んでいます。
人の体とその病態はそれぞれに異なりますから、よくYouTubeやInstagramなどのネット配信で見かける「膝が痛い時にはこの体操だけでOK」のような一律なやり方では症状を改善できないばかりか悪化することもあるでしょう。「膝が痛い」という訴えにはさまざまな病態が含まれます。それぞれの患者個性に合わせ、負荷の掛け方を調整しながら評価をすすめるのもMDTの特徴の一つなのです。
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