case_305 左踵痛

左股関節痛、左下肢痛の既往歴もあります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左踵の痛みで受診した40代男性のお話です。

この男性、いろんなお仕事をしていますが、最近では畑の作業に汗をながすことが多くなっています。

実は4年ほど前に一度左股関節あたりが痛いとのことで受診したことがあります。その時には左股関節の症状でしたが、腰椎の屈曲エクササイズで症状は速やかに改善していったことがありました。

今回は2ヶ月ほど前、畑仕事がやや忙しくなってからの左踵痛です。ある朝起きて歩き始めた時に、左踵が痛くて左踵をついて歩けないようなことがあり、その後も、朝起きると歩き始めが必ず痛く、少し動き回っているうちに落ち着いてくるような感じが続いています。日中はだいぶ良いものの、全く症状がないわけではありません。

診察室で足踏みしてもさほど響かないようですが、痛いところはとお尋ねすると、左踵の内側を押しながら、

B男さん
B男さん

あっ、ここです!

とはっきりと痛いポイントがあることが確認できました。

単純X線検査は痛みのある左踵に加えて、MDTで評価するにあたり、腰椎の撮影も加えて評価しました。左踵は側面像で踵骨棘(とげのよう踵骨から伸び出した骨)があり、腰椎に軽度変性(L4/5)も確認できました。

まずは腰椎の可動域を確認しますが、いずれの方向も軽度の制限がある程度で踵の痛みには影響はありません。

以前、左股関節の痛みが腰椎の屈曲エクササイズで改善したことがあるため、まずはその影響をみてみることにしました。

やり方を復習して、まずは10回続けてやってみます。やっている最中には踵の痛みは特に感じません。普段から比較的重労働をなさっている方なので椅子に座ったまま最初から負荷もしっかりかける腰椎屈曲運動やり方をご説明し、10回終わったところでもう一度お伺いします。

佛坂
佛坂

もう一回さっきの踵の痛かったところ確認してもらえます?

B男さん
B男さん

えっ?なんで??

佛坂
佛坂

さっきは痛みは6点でしたが、今は何点くらい?

B男さん
B男さん

3点かな…

(FISit ER意識して 10回 B 圧痛3点)

かなりいい印象なので、さらに10回、しっかりと腰を曲げ切るような感じで反復してみます。

佛坂
佛坂

もう一回痛いところ押してみましょうか

何度も探しながら、

B男さん
B男さん

痛くないです!不思議…腰からきてるのか…

朝起きた時の歩き始めに特に強い踵の痛み、踵の内側のピンポイントで押したら痛い場所、単純X線検査では踵骨棘もみられる……整形外科では足底腱膜炎、あるいは踵骨棘(最近ではあまり症状とは関連がないと認識されています)の痛みと診断されてもおかしくない材料が揃っています。しかし、マッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)では、たとえ踵のピンポイントの痛みであっても、たとえ画像所見で踵骨棘がみられても、必ず腰椎からスクリーニングを実施します。それはまさに今回ご紹介したとおり腰椎に介入することで劇的に症状が改善する症例が紛れ込んでいるからなのです。しかもその有効な運動は前回のcase_304 右踵痛でご紹介した腰椎の伸展であることも、今回ご紹介した腰椎の屈曲であることも、また他の動きを組み合わせたパターンになることもあり、人それぞれです。MDTでは問診情報や可動域検査、姿勢検査などにヒントがある場合はそれを参考に、それがない場合も順番に運動に対する反応を評価することで、腰椎に関連した踵痛をスクリーニングしていくことができるのです。


※これまでに本ブログでご紹介した「踵痛」のお話はこちらのリンクで一覧できます。


さらにイラストを入れ、用語の解説などもつけてより読みやすくまとめたKindle版「マッケンジー法・症例ノート」でも両方の踵が痛くなったというお話を「マッケンジー法・症例ノート・#25」で、右の踵が痛くなったというお話を「マッケンジー法・症例ノート・#31」でご紹介しています。
ご興味のある方はご一読くださいませ。