case_302 右手しびれ

2ヶ月ほど続く右手のしびれ

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右手のしびれがある80代女性のお話です。

若い頃から洋裁などしていましたが、現在は手芸程度のことと家庭菜園程度の畑の世話などしていて、どちらかというとよく動くほうです。10年ほど前に左手の痺れで手外科で有名な病院で手根管症候群の手術を受けたことあり。その頃にも右手のしびれも自覚があったのですが、それについては手術という話にはならなかったようです。手術後は左手の痺れはよくなり右手の痺れは気にならない程度なので放置していました。

ところが、2ヶ月ほど前からふと右手のしびれを意識するようになりました。しびれは手首のあたりから指先まで、母指から小指まで全指の先までしびれる感じがあります。朝から晩まであまり症状は変わらないようですが、強いて言えば朝起きてまもなくしたくらいの時間が少し悪いような感じです。しびれのため手芸や書字が少々しづらい感じが出てきたためこのまま右手が使えなるのではと不安だけれど、手術は嫌だし…さてどうしたものかと思い出したころに、内科のかかりつけの先生にそのことを話したところ、当院にかかってみてはと勧められて来院しました。

単純X線検査では首を動かすのが危険なほどの骨粗鬆症はないのですが、若い頃からあるという猫背もあるため上位から中位の頚椎はストレートで下位頚椎から胸椎の前弯が強くなっています。

座位姿勢はかなりの猫背で、その状態での右前腕遠位から右手全指の痺れ感をベースラインにします。痛みはありません。

まずはしっかりと姿勢を整えて保持してみます。

佛坂
佛坂

手の痺れはどんな感じですか?

A子さん
A子さん

今は親指から中指あたりのしびれが強い感じがします

また楽なもとの猫背の姿勢に戻ってみます。

佛坂
佛坂

しびれはさっきと比べてどうです?

A子さん
A子さん

さっきより軽くなった感じがします

(姿勢矯正保持 右母指から中指のしびれ↑ B?)

猫背の状態からしっかりと背骨を伸ばす動きを繰り返してみましたが、その後のしびれの感じはあまり変化ないようです。

(SOC NE)

猫背がつよいため、両手を太ももについて上体を支え背筋はできる範囲で伸ばした状態に保ちつつ、顎をしっかり後ろに引く動作に集中してみます。動かし方をご説明し10回。

A子さん
A子さん

しびれはあまり変わらないようですが、でも…

佛坂
佛坂

でも?

A子さん
A子さん

なんかしびれの感じがさっきまでとは違う感じがします

(RET NE? しびれの感じに変化?)

あまりはっきりとした良い反応はない状態ですが、少なくとも悪い反応は何もないと判断し、エクササイズのやり方や症状の変化についての注意点などご説明し初回評価を終了しました。

それから1週間後。

A子さん
A子さん

もう、すっかりよくなりました!

佛坂
佛坂

ぜんぜんしびれは無いんですか?

A子さん
A子さん

そうなんです!先日体操を教えてもらってから翌日には嘘のようにしびれがなくなっていて…。このまま手が動かなくなるんじゃ無いかと心配でならなかったので本当に嬉しかったです

もちろん治った後もお約束のエクササイズは1セットあたり3回から5回くらいで気がついたらやっているそうなので、やり方をチェックします。

かなり背筋の伸びもスムーズでしっかりと顎が引けていることが確認できました。

エクササイズの後、お話ししているとまただらりとした猫背の姿勢はまだ残っています。今回のご経験からもともと意識していた猫背が悪かったのだということを強く意識するようになったとのことで、テレビ見ながら姿勢を整えること、これからもエクササイズは続けていただくようにご説明しました。

A子さん
A子さん

脊柱管狭窄症と言われてるんですけど、治らないんでしょうか?

佛坂
佛坂

今回の症状は脊柱管狭窄症とは全く関係ないですし、そもそも脊柱管が狭くなっていても症状がない人が多くいらっしゃるんです

A子さん
A子さん

そうなんですか?

佛坂
佛坂

なのでもう脊柱管狭窄症という病名は忘れてくださいね

脊柱管狭窄症という病名は健康食品や健康治療具、医薬品などのコマーシャルでも用いられることが多いためか、一般の方でも知らない人はいないのではないかというくらい良く知られている病名で、みなさん、あるいはみなさんの周りにもそう診断を受けたという人がいらっしゃるのではないでしょうか。レントゲンやMRIで脊柱管が狭いことがわかって「脊柱管狭窄症」と診断を受けることになるのですが、画像所見と症状とが全く関係がないことも少なくありません。病名に縛られている患者さんがその病名から解放されるのを手助けすることを私は「病名の呪いを解く」と表現しています。