一旦良くなっていた右膝の痛みがまたぶり返してきました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右膝が痛くなったという70代女性のお話です。
実はこの女性は2年ほど前に同じ右膝の痛みで来院され、腰椎の屈曲エクササイズで症状がよくなってしまったというご経験があります。
今回は、最近、草取りをしてから右膝の痛みが強くなってきたということでご相談にみえました。その他の日常生活では特に変わったことはなかったようです。
歩く時に右膝に響く痛みがあります。
腰椎の可動域では伸展が中等度制限されていますが、特に膝に影響はありません。

以前教わった、腰を曲げる体操をすると多少はいいんですがまたすぐ悪くなるんです
立ち上がる時の右膝の痛みに再現性があることを確認して、普段通り体操をやってみてもらい、もう一度立ち上がってもらいます。

どうでした?

少しはいいですけど、やっぱり痛いです
(FISit B?)
やり方を見ていましたが、少し緩いような印象でしたので、しっかりと腰を曲げることを意識したやり方をご説明して10回続けてからもう一度立ち上がってもらいます。

あっ、だいぶいいです!
(FISit B)
やはり腰椎の屈曲方向のエクササイズでよさそうな印象です。
いくら効果があるとわかっていても、上半身を前に曲げる運動はある程度環境も必要ですから、普段座ったままでもできるオプションとして座位での骨盤後傾を試してみることにしました。
背筋が丸くならないよう意識しつつ骨盤を倒すやり方のポイントなどご説明しながら10回。

もう一度、立ってみましょう

痛っ!、さっきより痛いです
(反復骨盤後傾 W)
すかさず、さきほど座った状態で腰を曲げる動きを10回やってから立ち上がってみます。

だいぶいいです!
座位での腰椎屈曲のエクササイズのポイントなどご説明し、今回の評価を終了しました。
今回オプションでやってみた骨盤後傾は基本的には腰椎には屈曲方向の運動となるのですが、上半身を倒していく腰椎の屈曲とは異なった負荷がかかることはお分かりいただけるかと思います。
マッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)では症状が素早く変わる方向をもつ病態をDerangementと分類していて、その分類では腰椎の屈曲方向でよくなるタイプをDP屈曲(DP: Directional Preference, 良い反応のある姿勢や運動の方向)と表現します。しかし、腰椎の屈曲と言ってもそのやり方は様々。今回の症例のように同じ方向でもやり方を変えることをMDTではFA(force alternative)と呼んでいてMDTで評価する際の考え方の一つになっています。
基本的にはある負荷ですでに良い反応がある場合はそれから変える必要はないのですが、日常生活の中で実施できる頻度が増やせそうなオプションを選ぶ場合もあります。そのような場合でも、必ず「良い反応があるか」を確認してエクササイズの種類を選択します。
このように「ある運動負荷に対する反応を確認してやるべきことを決める」個別の完全カスタム評価システムがマッケンジー法なのです。