半年ほど前から続く左足先の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左前足部の痛みで来院した70代女性のお話です。
半年も前からの症状ですが、ご高齢のご家族のお世話で、自分のことが後回しになってしまい、なかなか受診ができなかったようです。そのようなお忙しい生活で、じっと座っている事はあまりないようで、よく動き回っているのですが、その間、ずっと左足先を着くときの痛みがあります。社会全体で高齢化が進んでいて、さまざまな健康不安が出てくる60代以上のシニア世代でもさらに高齢の家族の世話に追われる、そんな大変な時代になってしまったことを実感します。
腰椎の単純X線検査の所見では腰椎固定、右人工股関節の手術後の所見です。腰椎は40代の頃、バレーボールで腰を痛めて整形外科にかかったところ、脊椎のずれを指摘されて一椎間の固定術、右股関節は数年前に全置換を受けています。
左足についても半年も続く痛みですから、念の為に単純X線検査を実施しましたが有意な所見は認めませんでした。
さて、現在の症状は歩くときに左足先に体重が載ったときに2点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。座っているときには痛みは感じません。

痛みは最初どんな風に始まったか覚えてますか?

それが、最初は痛いというより痺れている感じだったんです…それがいつの間にか痛い感じになって
このちょっとした会話の中に脊椎に関連した症状ではないかと疑わせる情報がありますね。
座っている姿勢はさほど悪いというわけではないのですが、まずは姿勢を矯正して保持すること1分。

左足先の感じには変わりありませんか?

なんか少し暖かいような…血流がある感じがします
影響がありそうですので、そのまま脊椎の評価を続けます。
立っていただき、腰椎の可動域検査をすると、屈曲は両手が床につくくらい柔らかいのですが、伸展があまりできません。
これまで得られた情報から伸展方向の負荷を第一選択にしようと思いますが、MDTセラピストの皆さんはここからどういう動きを選択されるでしょうか。同じ腰の伸展といってもいろんな負荷のかけ方があります。
70歳以上とやや高齢ではありますが基本的によく動けていて、あまり座っていることがないとのことですので、まずは立位で腰椎の伸展をしてみることにしました。
やり方をご説明し、立ったままで腰椎の伸展をできる範囲で続けて10回実施します。

足踏みして、足先の痛みを確認してみましょうか

なんか少しいいみたいです
良い印象なのでさらに10回。

どうですか?

だいぶ軽い感じがします
特に大股で歩くときに余計に足先に痛みがあるとのことでしたので、診察室前の廊下をいつもの大股で行き来してもらいました。

どうでした?

痛くないです!
(EIS B)
エクササイズのやり方をご説明し、初回評価を終了しました。
今回は半年前から続くという負荷がかかったときに痛いという左前足部痛でしたが、前足部にはなんら介入する事なく、腰椎の伸展負荷をかけたところ、その場で著明な改善がみられました。
今回は最初の頃に痺れから始まったというかなり腰椎の関連を疑わせる情報がありましたが、このようなパターンばかりではありません。むしろきっかけがある無しに関わらず、ある時から痛みを覚えて、それがだらだらと続くというパターンの方が圧倒的に多いでしょう。そして多くの場合、痛くなった頃にその痛くなった部位に関連した過去のイベントを探してそのせいで痛いのだと思い込んでしまいます。
足先に限らず、四肢のさまざまな症状が脊椎に関連しているという事は、すでに多施設研究で報告されている事は以前ご紹介した通りです。
今回のお話から、四肢の症状であっても脊椎のスクリーニングが大切だということを再度強調したいと思います。
※四肢のみに痛みがある患者の中に、多くの脊椎に関連した痛みがあることを報告した多施設研究です。論文のNCBIリンクより無料で全文をご覧いただけます。
Rosedale R, et al. A study exploring the prevalence of Extremity Pain of Spinal Source (EXPOSS). J Man Manip Ther. 2020;28:222-230.