case_295 両上肢痛

右肘に始まり、その後あちこちが痛くなってきました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両上肢のあちこちが痛くて来院した60代男性のお話です。

農業現役で、重労働の毎日を送っています。1ヶ月ほど前から右肘の曲げ伸ばしの具合によって右肘が痛いと感じるようになりました。あまりこれといって思い当たることもないので、そのまま放置していましたが、その後、右肩が痛くなりました。肘のことをかばって動かしていたからかと思っていたら、今度は左前腕の筋肉痛のような感じになり、これまた右腕をかばった動かし方をしていたからかなと様子を見ていたら、その筋肉のこわばりのような痛みが左上腕にも感じられるようになり、さらに左肩を動かす時に痛みが走るようになりました。

これから農繁期ということもあり、今のうちになんとかしておかないとと考えて病院に行くことを決めました。

診察室でじっと座っている時には多少の左肩周りから上腕の違和感程度はありますが、痛みというほどのことはありません。

両上肢の可動域をみると、左肩の前方挙上が90°くらいのところで3点ほどの痛みがあり、そこを超えて挙上するとそのあとは痛みが無い状態で左右さなく上げ切ることはできます。

肩の外転では左は80°で先ほどより強い5点くらいの痛みがあります。

また、左肩挙上、外転90°くらいで内旋・外旋するような動きでも痛みの増悪が確認できます。

B男さん
B男さん

今はこの辺まで痛くなってきたんですよ…

と、左の大胸筋の上腕骨付着部側のあたりを押して痛みがあると言われます。

姿勢はさほど悪いわけではないのですが、まずは姿勢を整えて保持すること1分。

佛坂
佛坂

左腕の違和感、先ほどと比べていかがです?

B男さん
B男さん

今は……ん?……今は無いです

佛坂
佛坂

前に手を上げるのやってみましょうか

先ほどよりスーッと上げながら、

B男さん
B男さん

さっきより上げやすいです…まだ痛いのは痛いですけど、さっきとは違います

脊椎に関連した上肢の症状の可能性が高くなりましたので、座ったまま、さらにしっかりと頚椎から胸椎の伸展を10回反復してみます。

佛坂
佛坂

手を上げるのどうでしょうか

ちょっと驚いたように、

B男さん
B男さん

痛く無いです!

佛坂
佛坂

外側にあげるのはどうでしょう?

B男さん
B男さん

まだ少し痛いですけど、最初とは全然違います

(反復SOC 10回 B)

さらに10回、しっかりと伸展動作を繰り返した後に、左肩を外転してみます。

B男さん
B男さん

もう痛く無いです……首だったのか…

そして先ほど胸の押して痛かったところを何度も押しながら、

B男さん
B男さん

胸の筋肉の痛いのも無くなりました…

エクササイズのやり方の確認などして初回評価を終了しました。

今回のお話でお気づきのことがあるでしょうか。「両上肢のあちこちがタイミングばらばらに痛くなった」という症状は、ご本人が感じておられたようにある痛みのある部位をかばっているうちに起こった別の痛みのようにも見えます。
しかし、マッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)の分類でいうDerangement(下記※参照)の症状に非常によくみられるパターンで、最初にお話を伺っているうちに頚椎〜胸椎Derangementをかなり強く疑いました。

「同じ動作でも痛い時と痛く無い時がある」、「痛みの場所が変わる」などの症状をお持ちで、治療は受けているけどもなかなか症状が改善しないでお困りの方はいらっしゃらないでしょうか。そのような方でMDTによる評価を受けたことがない方がいらっしゃいましたら、是非一度最寄りの認定セラピスト在籍施設で評価を受けてみられてはいかがでしょうか。


※ Derangement:Directional Preference(良い反応を引き出せる特定の運動の方向のこと)が存在し、比較的短期間(評価実施の即時から遅くとも数日間程度)で症状が消失する、または改善が見られるもの。