ベッド上で膝の屈伸運動をしていて膝がカクッとなり伸ばせなくなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は内科の疾患で入院中の60代女性のお話です。
いつも体が鈍ってしまわないようにと体を動かすことはまめにしているようです。入院後も、できる範囲で体を動かそうと意識していたようで、朝からいつもの仰向けで両方の膝を片方ずつ曲げ伸ばしする体操をしていました。ところが、その最中にカクッと音がして骨がずれたような感じがして左膝が伸ばせなくなってしまいました。
内科の先生から相談をうけて診に行った時は仰臥位で左膝は屈曲90°くらいで安静にしている状態でした。

左膝少しは伸ばせます?
自分でできる範囲で動かしてもらうと、恐々とわずかに動かせます。

伸ばすと痛いです

どのあたりに痛みがあります?

膝から足首あたりまでかな
下腿外側に響く感じがあります。
MDT的には膝の痛みは……やはり腰からでしたね。
膝に音がしたのに?
そうなんです。もちろん膝の半月板など構造物の何らかのはまり込みによる症状も可能性はありますが、たとえ膝のパキパキがあってもやはり腰から評価をすすめます。
ベッド上安静が続いていて、横になって丸まっていることが多いとのことなのでその逆、つまり伸展方向も見てみたいのですが、今は体の動きがとれません。
脚の痺れはありません。
仕方がないので、とりあえず動かせそうな屈曲方向に動かしてみることにします。
両膝を曲げて太ももを抱えてもらいます。

痛みは大丈夫ですか?
痛みの増強はないようなので、このまましばらく腰を丸めた状態を続けてみます。
えっ?丸まりがちだったのに、さらに腰を丸める??
MDTでは動きに対する反応を見ていきますから、少しでも動かせる方向に動かしてみて、その動きに対する反応があるのかないのか、反応があるなら良いのか悪いのかというように変化が良くも悪くも起こることで次にやることを決めていきます。
少なくともしっかりと曲げ切っている時には先ほどあった左下肢の違和感などもない状態になることが確認できました。
しばらく続けた後、元の状態にもどってみます。

左膝の感じ、どうです?

さっきより伸ばせてるような感じがします……
たしかに先ほどの屈曲90°(伸展-90°)から屈曲70°(伸展-70°)くらいになっているように見えます。
しばらく仰臥位でできる範囲で腰椎の屈曲を繰り返すことをやってみることにしました。
その夕方、再び訪室してみます。

その後、膝伸ばす時の痛み具合どうですか?

痛いところをもんだりしていたら、だんだんと良くなってきて……
もう不安なく膝を伸ばせるようになっています。もちろん膝の音などしません。
エクササイズについてはそれをやったから劇的に良くなったというより、ご本人的には揉んでいたら良くなったと感じています。
もちろん、丸まった状態で下腿を揉んでいたことで良くなっただけかもしれません。
今回の評価の経過についてはいろんな解釈があるかと思います。
エクササイズとしては仰臥位での腰椎屈曲の反復ですが、この時、左膝は非加重での屈曲を繰り返していたとも言えます。
ならば膝のDerangement※であったのか?
もちろんその可能性もありますが、MDTではある患者の症状が、一定方向の動きに対して良い反応があったとき、その評価時にどこを動かそうとしてフォーカスしていたのかということで暫定的な分類をします。これを脊椎から順に行うと、評価結果が同じ人は必ず同じ分類として落とし込まれます。すでに評価者間一致性についての研究も複数の報告があり、MDTセラピストの評価者間比較においては、高い一致性が確認されています。MDTの分類方法は評価者によってぶれにくいシンプルな評価法とも言えます。
※Derangement:Directional Preference(良い反応を引き出せる特定の運動の方向のこと)が存在し、比較的短期間(評価実施の即時から遅くとも数日間程度)で症状が消失する、または改善が見られるもの。詳しくは国際マッケンジー協会日本支部会長岩貞吉寛著、「総説 マッケンジー法概要」(無料で閲覧できます)をご覧くださいませ。
【参考文献】
※MDTの評価者間一致に関する研究の一部になります。
Reliability of the McKenzie Method of Mechanical Diagnosis and Therapy in the examination of spinal pain, including the OTHER classifications: Reliability of the McKenzie Method in spinal pain.
Braz J Phys Ther. 2025 Jan-Feb;29(1):101154.
Inter-rater reliability of the McKenzie System of Mechanical Diagnosis and Therapy in the examination of the knee.
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J Man Manip Ther. 2014 Nov;22(4):199–205.
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Physiotherapy. 2006 June;92(2):75-82.
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J Manipulative Physiol Ther. 2005;28:122–7.
Interexaminer reliability of low back pain assessment using the McKenzie method.
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Intertester reliability of the McKenzie evaluation in assessing patients with mechanical low back pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2000;30:368–89.