case_285 右肘痛

10年来の右肘痛、最近は夜中に痛みで目が覚めます

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は10年来の右肘痛があるという60代男性のお話です。

以前は建設業のお仕事で、すでに退職しています。10年ほど前から、右肘あたりが痛くなりました。あまり症状はひどくなかったため放置していたのですが、徐々に増悪。最近では痛みで夜に目覚めることもあり、人からも勧められお近くの整形外科受診したところ、マッケンジー法による評価を勧められて受診しました。

右肘外側を中心に安静時にもズキズキした4-5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。右手指を伸展して手関節を背屈するストレッチをすると痛みが強くなりますが、そのあとは少しスッキリする感じはあるため、この自分なりに考えたストレッチを時々やっていますが、根本的には改善していません。
ゴルフに行く時にはロキソニンを飲んで行くと、全く痛みがない状態でプレイができるのですが、あまりに痛みが感じなくなり怖いのでゴルフの時だけと決めているようです。

診察時点でお話を伺いながら確認すると、右肘外側に3点の痛みがあります。

まずは姿勢を矯正して保持すること1分。

佛坂
佛坂

右肘の痛み、今どうです?

ちょっと考えて、

B男さん
B男さん

今は…ないみたいです

(姿勢矯正保持 abolish)

3点の痛みは完全にないことが確認できました。

いままでずっと続いていた痛みが姿勢を変えるだけで消えるとわかっただけでも、かなり有用な情報と言えます。

頚椎の可動域を確認すると、伸展が重度の制限があり、上を向く時に右肘に痛みが誘発されます。回旋、側屈は中等度の制限がありますが、右肘の痛みが強くなることはありません。

姿勢を整えることで症状が改善したことを参考に、まずはしっかりと頚椎から胸椎を動かすことを繰り返してみることにします。

先ほどのいい姿勢からさらにしっかりと顎を引いて下位頚椎から胸椎の伸展を繰り返してからもう一度楽に座った状態に戻ってからうかがいます。

佛坂
佛坂

最初にいつもあるとおっしゃった右肘の痛み、さっきは3点でしたが、今は何点くらいですか?

B男さん
B男さん

今は痛くないですね…

佛坂
佛坂

0点?

B男さん
B男さん

そうですね、0点です

(SOC 10回 abolish B)

エクササイズのやり方などご説明し、初回評価を終了しました。

右肘外側から前腕近位部あたりにズキズキする痛みが10年も続いていると聞くと、おそらくそれだけで「慢性疼痛」と診断されても不自然ではありません。しかし、マッケンジー法による初回評価の結果は暫定分類はDerangementと呼ばれるある特定の運動負荷により短期間で症状が改善するタイプの頚椎に関連した右肘痛だったようです。

この方はロキソニンが劇的に効くということもあり、必要時に内服するくらいに自らルールを決めて、これまで病院に行かずにいたので投薬は免れましたが、もし病院に行っていたら、ロキソニンなどの一般的な消炎鎮痛剤はもちろんのこと、慢性疼痛に用いられるトラムセット(トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠)を投与されていたかもしれませんし、神経障害性疼痛と診断されて最近乱用が問題になっているタリージェやプレガバリンなどが投与されていたかもしれません。

マッケンジー法ではある痛みがどれだけ長く続いているという情報は参考にはしますが、それによって評価法を変えることはありません。これまでにも同様のお話をいくつかご紹介してきましたが、10年来の痛みであっても特定の運動負荷で短期間に改善することがあるということを、今回のお話からお伝えできれば幸いです。