階段を上がる時に右股関節が痛みます
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右股関節痛のある70代女性のお話です。
一年半ほど前から階段を上がる時に右股関節が痛い状態が続いています。病院に行っても手術を勧められたら嫌だと思って病院にはかからず放置していました。階段を上がる時に手すりを使って二階に行けるので、自宅での生活はできていたようです。最近、少し症状が悪くなってきたので、高血圧でかかっている内科でそのことを相談したところ、当院をすすめられ来院しました。
診察室でお話しをうかがっている時には痛みらしい痛みは確認できません。
単純Ｘ線検査では腰椎には年齢相応の変性所見があり、また右股関節には左右の違いがわかる程度の初期関節症が確認できました。
腰椎の可動域はいずれの方向も中等度に制限されていますが、右股関節が痛くなる動きはありません。
椅子から立ち上がる動作で少しばかり右股関節に左とは違う違和感があるようで、まずはこれをベースラインとしてみます。
姿勢を整えて保持すること1分。
さっき立ち上がった時の右股関節の違和感覚えてますよね？もう一度立ち上がってみて、確認してみましょう
さっと立ち上がり、
今はなかったです
（姿勢矯正保持 abolish 立ち上がりの違和感）
しゃがみ込んで立ち上がる時にも股関節痛は再現できません。
そこで、リハビリ室に移動して訓練用の階段を上がってもらいます。
こうやって右足から階段を上がると痛いですね…
歩く時などなんともないのに、右足から階段を上がろうとすると右股関節に5点（考えうる最大の痛みが10点満点として）の痛みが再現できます。
まずは座った状態で脊椎をしっかり伸展する動作を繰り返してからもう一度同じように階段を上がってみます。
どうです？
まだ少し痛いですけど、さっきより痛くないですね…
（SOC 10回 B）
もう一度、座って同じ運動をさらにしっかりと5回やってから、階段を上がってみます。
あれっ、今は痛くないです！
何度か上がってみましたが、右足から上がった時の痛みはありません。
（SOC 5回 abolish B）
エクササイズのやり方などご説明し、初回評価を終了しました。
それから7日後。
やはり階段を上がる時には痛いようで、全体としてはあまり変わらないようです。
エクササイズのやり方をチェックすると、やり方が緩くなっていることが分かりましたので、もう一度しっかりとやることをご説明しました。
さらに2週間後。初診から3週間後になります。
まだあまり変わりません。
エクササイズのやり方をチェックすると……まだやり方が緩い状態です。ここだというポイントを再度ご説明します。
この日は右腿上げでの痛みをベースラインにしてその場で評価しましたが、しっかりとエクササイズを行うとやはり症状はその場で軽減することが確認できます。
しっかりとやるということと、頻度がまだ少なめのようですので頻度を増やすことを宿題にしてみました。
それから2週間後。初診から5週間後になります。
だいぶいいです！いつもは昼から階段上がるのがかなり痛かったんですが、それほど気にならなくなってきました
体操はどのくらいできました？
10セットはやってると思います
エクササイズのやり方を見せてもらいます。
たしかに以前よりしっかりというところを意識されているように見えます。
エクササイズを続けたらこのまま治りそうと感じているようです。治った後もエクササイズは意識して続けるようにアドバイスをして卒業となりました。
今回のお話しいかがでしたでしょうか。単純Ｘ線検査では右股関節に初期の変形性関節症の所見がありましたが、座位での脊椎運動による介入で症状は改善してしまいました。
まだ完治には至っていない状態での卒業でしたが、腰椎に関連した右股関節痛であったと暫定的に分類して良さそうです。
一般的な整形外科の診断手順では股関節の痛みがある患者で単純Ｘ線写真で股関節の変形が確認できれば「変形性股関節症」と診断されて投薬・リハビリ、経過によっては手術などの治療を行います。一見、この診察・診断・治療手順は妥当に思えますよね。
しかし、今回ご紹介したようにマッケンジー法（MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます）で評価すると、たとえ股関節の痛みであっても腰椎のエクササイズにより症状が改善する場合があるのです。
もちろん全ての股関節の痛みが今回のお話のように改善する訳ではないのですが、股関節の痛みで股関節の治療を受けているけれど治療効果がはっきりしないとき、一度はマッケンジー法による評価・治療を受けてみる価値があると感じていただけましたら幸いです。