case_281 腰〜左大腿痛

腰部脊柱管狭窄症でタリージェを処方されていますが効きません


整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は2年前から続いている腰痛と左大腿痛・下腿しびれで来院された80代女性のお話です。

2年ほど前に歩いていて急に右臀部が痛くなりました。その後、その右臀部の痛みが治ったと思ったら、今度は左臀部が痛くなり、さらに左大腿まで痛みが広がりました。それからしばらくして、左下腿がしびれた感じになり、以後ずっと痛みとしびれが続いています。お近くの整形外科を受診し、腰部脊柱管狭窄症と診断され、タリージェ(神経障害性疼痛治療)、ノイロトロピン(鎮痛)、リマプロスト(血流改善)、ムコスタ(胃粘膜保護)など処方されましたが、薬は効いた感じがありませんでした。薬局では勝手にやめないようにと説明は受けていましたが、時々自己判断で内服を自己中断してみたこともありますが、あまり症状に変化はなかったそうです。

内服薬のほかにリハビリ通院もしてきました。リハビリではマッサージをしてもらい、リハビリの施術の後には痛みも痺れも感じない時もあったようですが、長続きはしません。リハビリで教えてもらっている腰部脊柱管狭窄症にいいという腰を曲げる体操をしていますが、体操の後、むしろ腰が痛いと感じることもあったようです。

日常生活の中では、左肩に荷物をかけて持つ癖があり、その時に症状が強くなるように感じています。普段は右手に荷物を持たないのですが、右手に荷物を下げて歩いたときは比較的痛みが軽く普段より歩けたこともあったようです。

座っている姿勢は極端な猫背などなく同年代の高齢者なら普通と言える程度の姿勢です。

座ってお話を伺いながらかれこれ10分以上座ったままになりますが、現在の症状は、左下腿のしびれのみで、腰から左大腿の痛みはありません。

姿勢を矯正してしばらくすると、

A子さん
A子さん

腰から脚が痛くなってきました…

佛坂
佛坂

いつもの感じですか?

A子さん
A子さん

そうですね

いつも感じている腰の左側から左大腿のしびれるような痛みが少し軽い形で再現されました。楽な姿勢に戻るとその痛みはすぐになくなります。

(姿勢矯正保持 P左腰、P左大腿しびれーNW)

立っていただき、腰椎の可動域を確認すると、伸展しようとすると痛みはさほどではないのですが、動きが悪くほとんど伸展できません。

もう一度座っていただき、症状の確認をすると、左大腿の重い感じが残っているようです

ご高齢でもありますから、座って腰の動きを少し出すことから始めてみます。

座位でしっかりと頚椎から胸椎までしっかり伸展してまだだらりと戻る動作を痛みが強くならないことを確認しながら、動かせる範囲でやってみます。しっかり伸展した時に多少腰の痛みがありますが、続けられる程度で、繰り返しても悪くならないのでそのまま10回続け、終わってからうかがいます。

佛坂
佛坂

さきほど感じていた左の太ももの重い感じはいかがです?

A子さん
A子さん

今はさっきほど感じないです

(SOC P腰痛-NW 左大腿の重い感じ B?)

まだはっきりとこの方向性でいいというほどの変化はないのですが、お一人でも安全にできることも考え座位でできるこのエクササイズを宿題にすることにしました。

それから2週間後。

A子さん
A子さん

すごくよくなりました!

嬉しそうに話されます。

佛坂
佛坂

どんな感じに良くなりました?

A子さん
A子さん

以前はふくらはぎあたりから全部痺れていたのが、今は足先に少し痺れを感じるくらいでほとんど気にならなくなりました

佛坂
佛坂

腰から太ももも痛みはどうでしょう?

A子さん
A子さん

まだ腰が少し痛い感じは残ってますが、今朝も1500歩、歩いても痛くならなかったんです!
二年も痛かったのに…

内服薬については全部やめてしまったようですが全く問題なかったようです。

A子さん
A子さん

これまで飲みたくないお薬を全部やめてしまってストレスがなくなって気持ちもスッキリしました!

最初に詳しくお話を伺っている時に、「全く症状がないときもある」ということがわかりました。これはつまり何らかの状態で神経が全く影響を受けない時には症状が消失していることを意味しています。つまり、神経自体が障害されているわけではなく、神経は正常に機能していますから、このようなタイプの痛みは「神経障害性疼痛」ではなく「侵害受容性疼痛」に分類されるべき症状なのです。

ところが、この方のような「2年前から続く腰痛・下肢痛」という状態が神経障害性疼痛と診断されてプレガバリン(先発品:リリカ)、ミロガバリンベシル酸塩(タリージェ)などのガバペンチノイドと呼ばれる薬剤が多く処方されているのが実情です。
もちろん、侵害受容性疼痛であっても、中には多少効果がある人もいるかもしれませんが、この方が服薬しても何も変わらなかったと言われている通り、多くの侵害受容性疼痛の患者さんにはほとんど効果がないタイプのお薬です。

リリカやタリージェの投薬自体を否定しているわけではありません。第一に神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛を間違えないように診断することはもちろん重要なことなのですが、中には紛らわしい病態もあるでしょう。仮に診断に問題があり今回のような適応のない処方がなされた場合であっても、その後のフォローで投薬の効果があったのかを確認し、処方を見直すことを忘れなければさほど問題にはならないでしょう。

今回ご紹介した薬剤だけでなく、効果の感じられない薬を漫然と投薬されるままに内服を続けるようなことは避けるべきだと考えています。


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マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。

この本ではマッケンジー法を取り入れた私の診療の様子をそのままご紹介していて、何らかの症状があってマッケンジー法による診療を受けてみたいとお考えの方はもちろんのこと、マッケンジー法ではどんな考え方をするのかということを知りたいという医療関係者、マッケンジー法を勉強しようと考えているセラピストやすでにマッケンジー法による診療を実践しているセラピストの皆様まで、私の実践しているマッケンジー法の考え方に触れられる今までになかったタイプの一冊です。

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