一年前から続く右肘外側の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は一年前から続く右肘外側の痛みで来院した50代女性のお話です。
カルテを確認したところ、一年数ヶ月前に、左肘の痛みで来院したことがある方でした。
その際には頚椎のエクササイズ指導で速やかに症状は改善してしまい、以後来院はありませんでしたが、その後数ヶ月したころ、引っ越し手伝いで重いものを持つ作業をしてから右肘が痛くなったそうです。重い物を持ち上げる時はもちろん、軽い物でも掴み上げるような動作で右肘の外側(右上腕骨外側上顆)の痛みがあり、骨のでっぱり(外顆)を指先で軽く叩いても痛みが響く状態で、診察前に外来待合室で待っている間も痛い場所を自分で確認していたようです。ネットで調べるとテニス肘(上腕骨外側上顆炎)のようで、YouTubeのテニス肘のセルフケアのクリップを見て、ストレッチをしていたのですが、ストレッチをしている時は余計に痛くなるものの、ストレッチ後は多少いいかなという感じがあり時々やっていたのですが、振り返ってみると良くなっているわけでもなく、結果としてあまり効果はなかったようです。
自分で痛みのあるところを押してもらって確認すると、右上腕骨外側上顆の直上に圧痛3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、上腕骨外側上顆炎の診断に使われる徒手テストも陽性(Thomsen テスト+)です。
頚椎の単純X線検査ではストレートネックからさらに後弯変形がみられ、伸展位でかろうじてストレートになるかという状態であることが確認できました。
ここが押したら痛いんですよ…
もう一度、痛みの部位を確認しましたが、やはり同じで限局した範囲の痛みです。
まずは姿勢を矯正して1分ほど保持してみると、先ほどの押して痛かったところはさっきより少し痛くないかもというくらいのわずかな変化はあるようです。
続けてしっかりと頚椎〜上位胸椎を伸展する動きを繰り返してみることにしました。実はこの動きは昨年、左肘が痛くて来院された時にやったエクササイズと同じものです。
去年、左肘が痛くて来た時に、やったエクササイズ覚えてます?
えっ、左肘が痛くて来たんでしたっけ?
いつ頃どんな痛みがあったとか、意外に忘れているものですね。
体の動かし方をご説明して5回繰り返しました。
さっきの痛かったところ、もう一回押してみましょうか
あれっ?まだ少し痛いけど、さっきよりだいぶいいです…なんで?
去年の左肘のときも同じだったんですよ
(反復RET+EXT 5回 NRS 3 → 1, B)
もう一回やってみましょうか
さらに5回。しっかりと伸展するエクササイズを繰り返してからもう一度押してみます。
さっき痛かったところを何度も押して、周りも押して探った後に
全然痛くない!
机の端を掴んで持ち上げる動作も何度も繰り返しながら、
さっきまで痛かったんですよ…ほんとに…なんで?
どうやら去年の左肘と同じことが、今度は右肘におこったみたいですね
(反復RET+EXT 5回 NRS 1 → 0, B)
今回のお話、いかがでしたか?
日本整形外科学会が上腕骨外側上顆炎の診療ガイドライン(第3版は2024年10月9日発売予定)を策定しているのですが、その中に診断基準が明記されています。
・上腕骨外側上顆の伸筋群付着部に最も強い圧痛がある
・抵抗下手関節背屈テストで肘外側に疼痛が生じる
もちろん、この方はこれらの条件を満たしていますので、「上腕骨外側上顆炎」と診断されます。
しかし、実際には本人に痛みの部位を肘を押して確認してはもらったものの、私は肘には指一本触れず頚椎の動かし方を指導したところ、その場で一年来の右肘痛は完全に消失しました。
これは本当に「上腕骨外側上顆炎」なのでしょうか?
まだまだ一般の整形外科では知られていない「上腕骨外側上顆炎モドキ」とでも呼ぶべき病態が存在することは間違いないように感じるのは私だけではないのではないでしょうか。