陸上の練習中に右臀部に走った痛みが続いています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は部活で陸上をしている女子高生のお話です。
中学生の頃、腰が痛くなり整形外科にかかったところ、腰椎分離症と言われ、腰を反らしてはいけないと指導を受けていたようです。コルセットをつくりそれなりに装着していたのですが、結局、分離症は分離したまま治りませんでした。しかし、ときに腰が痛いくらいであまり気になるほどの症状はないようで、現在は治療を受けていません。
3ヶ月ほど前のある日、陸上の部活中に気分が悪くなりしばらく座り込んで休んでいて、気分が良くなった後に、スタートダッシュをやったところ、右臀部に痛みが走りました。その後、その痛みが続くため、整骨院にも数回通ってみましたが改善しません。自分なりにYouTubeで調べて坐骨神経痛かなと思って、梨状筋のストレッチのビデオを見てやっていましたが一向に改善しません。部活関連の知り合いでマッケンジー法の評価・治療を受けたことがある人から受診をすすめられ来院しました。
授業など長くじっと座っているときに、すこし左下腿がしびれることがあります。
左下腿は今もすこし痺れた感じがある様ですが、右臀部には痛みはありません。
まずは座る姿勢を整えて1分ほど。痺れが少し軽くなった様です。
(姿勢矯正保持 B? 痺れ軽い)
次に立った状態で腰椎の可動域を確認します。前屈(腰椎の運動で正確には「屈曲」と表現します)したところ、
今、右のお尻が痛かったです
何点くらい?
5点くらい
(ROM 屈曲中等度制限 右臀部痛P 5点)
屈曲でFFD(Finger-Floor-Distance 指床間距離)20cmほどでしたが、痛みがないときにはもっと曲がっていたようです。
立ったままで腰椎を10回伸展してみます。
左足のしびれはどう?
さっきより軽いです
前屈みしてみようか
さっきよりしやすくなりました
FFDは10cmくらいでまだ痛みはさっきより少しいいかなというくらいです。
(EIS 10回 B)
身体能力は非常に高いので、今度はうつ伏せでしっかりと腰をそらすやり方で10回。
もう一度立ってもらい再度確認します。
しびれは?
だいぶとれた感じがします
前屈みどうかな
少し痛いけどだいぶしやすいです
指先はもう床についています。
(EIL 10回 B)
再度うつ伏せになってもらい、さっきよりさらに手を手前についてもっと反りくり返る様にしっかりと腰を10回そらしてから、また立ち上がってもらい確認します。
しびれはどう?
もうないです
前屈みどうかな
ぐーっと曲げて、
もう痛くないです!
指は楽に床についています。
今回の右臀部痛がどうしてなかなか治らなかったのか、皆様はもうお気づきでしょうか。
最初に痛くなったとき、痛くなる前にうずくまって休んでいたときには腰をしっかりと丸めてうずくまっていて、その直後に思いっきりスタートダッシュで発症しました。
腰椎分離症で腰を反らさないようにという指導されたこともあり、腰をそらすことはあまりしていません。
加えて梨状筋のストレッチで腰椎の屈曲を繰り返していたようです。
腰椎の伸展を知らずのうちに制限して屈曲ばかりやっていた…そんな日々が見えてきますね。
マッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)では身体的な評価の前に、日常生活や症状の悪くなる状況などを時間をかけて詳しく伺います。そうすることで、その病態がある体の動かし方で早期に良くなるタイプ(MDTではDerangement※と呼ばれます)であるのか、またその痛みを改善できる確からしい体の動かし方を予測・検証するプロセスの成功率が高まり、結果として症状を改善する近道になることが多いのです。
※Derangementについては、国際マッケンジー協会日本支部の「マッケンジー法の概略」に簡単な解説がありますので、そちらをご覧くださいませ。