case_276 右足痛

サッカーの練習中に相手と足をぶつけて捻ってから痛みが続いています


整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右足が痛いという中学サッカー男子のお話です。

2ヶ月ほど前にサッカー中にボールを蹴る時に相手の足にあたり右足が背屈・外転・外反(動きの詳細については下記リンクご参照ください)するような捻挫をしました。
当初、足が腫れることもなく、その時はさほど痛みはなかったのでそのまま練習継続できましたが、翌朝から右足を捻った時と同じ様に足を外側に捻る様な動作で右足の内側が痛むことに気づきました。その後、風邪や胃腸炎などで体調を崩し、しばらく部活を休んで安静に寝ていた時に、じっとしていても右足の同じところが多少痛いことがあったようです。
しばらく部活を休んだ後、復帰した後に、サッカーをしてみたところ、右足の同じ動作で以前よりむしろ強い痛みがありました。その時にも見た目に腫れておらず、整骨院に通ったのですが症状は変わりません。そこで今度は近くの整形外科にかかりレントゲン、MRI検査も受けましたが、特に異常はないといわれ、右足のリハビリをするように勧められました。リハビリ開始予定の前日、ふとお母さんが以前マッケンジー法で診療受けたことを思い出し、リハビリを開始する前にマッケンジー法での診療を受けてみようと思い、急遽リハビリをキャンセルして来院予約し、受診しました。

サッカーは小学生の時からやっていて、小学生の頃に右鼠径部あたりが痛くなったことがあり、その際に近くの整形外科にかかりMRIではっきりしないものの剥離骨折の一歩手前のような説明を受けたことがありますが、その後、自然に良くなっています。
また走っていると両膝が痛くなることもあるようです。

診察時にも見た目には右足には特に腫れている部分もなく、痛み方についても確認してみますが、普通に歩いている時や、ジャンプ、片足でのケンケンしても右足の痛みは全くありません。右足を床に押し付けながら外転・外反して捻ると右中足部内側に4点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが再現できます。

座っている姿勢は猫背で、いつもそのような座り方をしているとお母様から確認できました。

まずは姿勢を整えて1分。

佛坂
佛坂

さっきの足の痛い動かし方やってみようか

もう一度立ってもらいます。

D男くん
D男くん

どう?今何点くらい?

何度かさっきの痛い動作を繰り返して確認して、

D男くん
D男くん

2点くらいです

先ほどの最初のベースラインが半減したことを確認できました。

(姿勢矯正保持 B 右足内側痛 4→2点)

腰椎の動きを確認すると屈曲が中等度制限されていますが、以前からかなり体が硬い方だとのことです。

続いて腹臥位の腰椎伸展をしてもらいます。そう、右足ではなく腰椎の評価を続けます。
先ほどの可動域確認のときに屈曲が硬い感じだったのに比べ、伸展はかなりやわらかく、しっかりと伸展できます。
できる限りしっかりと伸展を繰り返して立ってもらい、先ほどのベースラインを確認しますが、痛みは姿勢を矯正した後とあまりかわりません。

(EIL 10回 NE 2点のまま)

今度は立ち上がってもらい、立ったままでしっかりと伸展するやり方を説明し、10回伸展してみます。

佛坂
佛坂

今、痛みは何点?

D男くん
D男くん

1点です

(EIS 10回 B 右足内側痛 2→1点)

エクササイズを実施する際の注意点などご説明し、初回評価を終了しました。

今回のお話、皆様はどのように読まれたでしょうか。

これまでにもケガした後、局所の症状がダラダラと続く時に、一見すると外傷の後遺症の様に見える「外傷モドキ」というお話をいくつかご紹介したことがあります。

今回のお話で、症状の訴え方が通常の捻挫などの外傷の経過とは少々異なることに気づかれたでしょうか。

捻った直後は問題なく走れていたのに翌朝から痛くなった、痛くても全く腫れたりした覚えはない、十分な安静の時に何もしないでもその部位が痛いことがあった、走ってもケンケンしてもなんともないなど、普通の捻挫の症状としては説明がつかないような症状です。

それでも、ある局所の外傷のエピソードの後に発症したその局所の症状の場合、仮に局所のMRI所見に異常がない場合でも、一般的な診断学の考え方では局所の外傷という視点から離れられないことが多いのです。

マッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)では、病状について事細かに時間をかけてかなり詳しくお話をうかがい、症状の再現性などをチェックしていきます。このプロセスの中で本当に局所の問題なのか、あるいは脊椎に関連した症状の可能性が高いのかなどの推測を行いながら、その仮説が正しいかどうかの検証を行うように評価を進めていきます。

大したケガでもなかったのに、ケガの後にだらだらとなかなか症状が治らない…。そんな時、今回のお話でご紹介した、外傷後の症状に見えてそうではない「外傷モドキ」の存在を思い出していただけますと幸いです。

※足部の動作表記については日本足の外科学会ホームページのリンクをご参照ください。
※MDTTecsページ内リンク・「外傷モドキ」を検索して一覧
※「外傷モドキ」に類似した、一見すると腱鞘炎の様に見える「腱鞘炎モドキ」の記事はこちらからご覧ください。


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マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。

この本ではマッケンジー法を取り入れた私の診療の様子をそのままご紹介していて、何らかの症状があってマッケンジー法による診療を受けてみたいとお考えの方はもちろんのこと、マッケンジー法ではどんな考え方をするのかということを知りたいという医療関係者、マッケンジー法を勉強しようと考えているセラピストやすでにマッケンジー法による診療を実践しているセラピストの皆様まで、私の実践しているマッケンジー法の考え方に触れられる今までになかったタイプの一冊です。

※今回のお話しでご紹介した「外傷モドキ」、「腱鞘炎モドキ」などのお話もご紹介しています。

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