case_274 左下肢痛

左下肢痛で痛み止めを飲んでいます

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左下肢痛のある70代女性のお話です。

最近、重いものを持ったりすることが多かったためか、10日ほど前に急に左脚が痛くなりました。お近くの整形外科を受診したところ、あまりに痛みが強いためか、ロキソプロフェン(先発商品名:ロキソニン)とミロガバリン(商品名:タリージェ)の処方を受け、ミロガバリンは最初の5日間は2.5mg朝夕、その後5mg朝夕を14日分処方されて飲んでいます。痛みは多少いい様ですが、まだ起き上がりなど痛みが強く知り合いから一度マッケンジー法で診てもらってはと紹介され受診しました。

十数年前に腰椎椎間板ヘルニアに対して手術(L4/5除圧固定)を受けておられ、単純エックス線写真でも固定後の状態であることが確認できました。動かして問題になる様な不安定性などはないようです。

診察室では座っているときには左大腿の違和感程度ですが、立ち上がるときに左大腿に痛みが響きます。

座った状態で姿勢を矯正して保持すること1分。

佛坂
佛坂

太ももの違和感はどうです?

A子さん
A子さん

今は違和感は軽い様な気がします…

引き続き座位のままでしっかりと脊椎を動かす動かし方をご説明し、まずは1回、特に問題のないことを確認しつつトータル10回動かしてみました。

佛坂
佛坂

もう一回立ち上がってみましょうか

A子さん
A子さん

今はあまり痛くなかったです!

(SOC 10回 B 立ち上がりの左大腿痛軽減)

いい反応が確認できましたので、このエクササイズを宿題にして初回評価を終了しました。

また、初回のエクササイズに対する反応をみるに、タリージェなどガバペンチノイドと呼ばれる神経障害性疼痛に適応があるタイプの鎮痛剤が不要であると判断し、タリージェは中止して、痛いときにはロキソニンを頓服で内服するようにご説明しました。

それから1週間後。

初診当日から、泣くような痛みはすっかり消えてしまったそうです。

エクササイズは1日8セットくらいやってきました。

お薬についてもタリージェは受診当日から完全にやめてしまって全く問題ありませんでした。
ロキソニンは痛い時に数回飲んだそうですが、今はなんともないようです。

エクササイズチェックしたところ、とても丁寧にポイントをおさえてエクササイズをしていたことがわかります。

念のため2週後にもう一度チェックしましたが、その後も特に問題なく完治、エクササイズを取り入れた生活をお勧めし卒業としました。

症状からは坐骨神経痛としてよいかと思いますが、もちろん下肢痛のある患者さんが全て同様に治るわけではありません。

最近はこの方の様に神経痛に対してプレガバリン(先発商品名:リリカ)やミロガバリン(タリージェ)などの神経障害性疼痛に適応症をもつ薬剤が処方されることがとても多いのですが、2019年にBMJで発表された論文※で、ガバペンチノイド(ガバペンチンとプレガバリン)の処方が自殺行動、意図せぬ過剰摂取、外傷、交通事故と交通違反、凶悪犯罪による逮捕、などの増加に関連していると報告されていることをご存知でしょうか。
他にもこれらの薬が根拠なく乱用されていることに対して警鐘を鳴らしている報告は多数あります。

今回ご紹介した女性はタリージェをやめてもなんら問題なくエクササイズを継続し3週間で卒業されました。もちろんこれらの薬の使用を否定しているわけではありません。必要な投薬であることもあるでしょう。しかし、この方のようにエクササイズで症状が改善するようなタイプの人にも「神経障害性疼痛」として処方されている場合があるのも事実です。

鎮痛剤の処方の前にマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)によるメカニカルな評価がいかに大切であるのかを今回のお話から皆様にお伝えできれば幸いです。

Associations between gabapentinoids and suicidal behaviour, unintentional overdoses, injuries, road traffic incidents, and violent crime: population based cohort study in Sweden
BMJ 2019; 365 (Published 12 June 2019)


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