case_273 右肘痛

剣道の試合後、帰りの運転中に急に肘が痛くなりました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は剣道の試合の後に肘が痛くなったという30代女性のお話です。

警察のお仕事で、お仕事柄剣道をしています。お伺いして知ったのですが、通常は剣道か柔道か選択するようですが、この方はどちらもしているそうで、運動は得意な方のようです。

昨日、剣道の試合があり、途中、飛ばされて後頭部を打つようなエピソードがあったようですが、その後も試合を続けることができたようです。

ところが、運転して帰る途中、右肘が痛いのに気づき、その後、ハンドルを切るたびに右肘が痛むようになりました。
一夜明けてもまだ痛みが続き、右肘をしっかり伸ばすのもできなくなり病院に行ってみようと考え受診しました。

試合の間も特に右肘を打ったりしておらず、なぜ痛くなったのかわかりません。

診察室ではじっとしている時にはなんともないのですが、手を下げた状態で前腕を回内すると5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、肩を前方に挙上(肩屈曲90°)して同じように回内すると6点のあまり局在しない痛みが肘全体にあります。

自分で肘をまっすぐに伸ばそうとしてもしっかり伸ばし切ることができませんが、補助すれば痛みなく完全に伸ばすことができます(右肘伸展 自動-15°、他動0°)。

現在首には症状はないのですが、頚椎の単純X線写真も確認しました。ストレートネックはありますが、外傷による骨折など動かして問題になるような所見は認めません。肘関節も年齢相応で肘関節が伸ばしにくくなるような変形などの所見も認めません。

座っている姿勢はやや猫背です。まずは姿勢を矯正して1分。

佛坂
佛坂

さっきの手を回すのやってみましょうか

A子さん
A子さん

あっ、こっちはさっきより痛くないです

手を前に上げて回す方の動作は先ほどより軽くなったようですが、手を下げたままの動作ではあまりかわりません。

頚椎の動きには特に制限はなく、右上肢に響く痛みもありません。

まずはしっかりと顎を引く負荷をかけた動かし方をご説明し5回。
先ほどと同じ動作でさっきよりちょっとだけいいかなという程度です。

(RET反復 NE)

続いてさらにしっかりと伸展する動作を10回。先ほどの痛みを確認します。

A子さん
A子さん

あっ、だいぶいいです!

佛坂
佛坂

先ほどは5点くらいでしたが、今何点くらい?

A子さん
A子さん

2点くらいかな…

佛坂
佛坂

肘を伸ばしてみましょうか

A子さん
A子さん

伸ばしやすいです!

まだ完全ではありませんが、かなり伸ばせています。

(RET+EXT 10回 B 右肘伸展↑ -5°)

さらに負荷を強めた伸展のやりかたをご説明し、5回。

佛坂
佛坂

手を回すときの肘の痛みどうです?

何度も確認し、さらにしっかりと回内をしながら、

A子さん
A子さん

この辺が少し痛いかなというくらいでほとんど痛くないです!

まだ痛かったところがわかるくらいの痛みがあるようですが、痛みは激減しています。

佛坂
佛坂

肘を伸ばしてみましょうか

A子さん
A子さん

だいぶ伸びます!自分で伸ばせる感じになりました!

(RET+EXT w/op self 5回 B 右肘痛 <1、右肘伸展↑ 左右左がある程度)

まだ少しだけ左右さはありますが、初回評価としては十分でしょう。宿題を決めて初回評価は終了しました。

剣道の試合中には頭を打つような転倒はしたものの、右肘にはこれという打撲などなかった方が、帰宅途中に右肘が痛くなり肘が伸ばしにくくなったという女性。マッケンジー法で評価した結果は頚椎の運動負荷で有意に症状が改善しました。

医療関係者で特に整形外科医には少し理解し難い病態と思えるかもしれませんが、実は今回ご紹介した症例ような病態はマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)の評価法ではあまり珍しいものではなく、頚椎Derangement※という比較的よくみられるカテゴリーに分類されています。

一方、このような病態は、実はあまり整形外科領域では知られておらず、私の知る限り整形外科用語集にもそれを表現する病名や病態名などは記載されていません。もしこの記事をご覧になった整形外科医でこのような病態を既存の整形外科疾患名でどのように表現し、またどのように治療するのかご存知の方がいらしたらぜひご教授くださいませ。


※Derangementについては、国際マッケンジー協会日本支部長である岩貞吉寛先生の論文をご参照くださいませ。

マッケンジー法概要, 岩貞吉寛
Overview of the McKenzie Method®, Yoshihiro Iwasada, MS, Dip. MDT, PT
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmpt/21/2/21_51/_pdf/-char/ja