変形性股関節症でいずれ手術になると言われました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右股関節の痛みで来院した60代女性のお話です。
1ヶ月前くらいから、振り向くときなどに、ときに右股関節痛を感じるようになりました。近くの整形外科にかかり検査してもらったところ、股関節が悪いのと坐骨神経痛もあると説明され、股関節については将来人工関節になるかもしれないので気をつける様にと言われました。行きつけの美容室でたまたまその話をしたところ、そちらのご主人がマッケンジー法で治療を受けた経験があり、当院で一度診てもらってはと勧められ受診しました。
時にしゃがんで立ち上がりにくいと感じることがあるのですが、それもいつもではありません。自分としては老化ではないかと感じているようです。
これまでに足が痛くなったことがないか、お話を伺っていたところ、一年くらい前のエピソードがありました。
カラオケで長く座っていた後に右脚全体がものすごく痛いことがあり、その場所から家まで歩いて5分の距離だったのに、歩けずタクシーで帰りました。ところが、家でお風呂に入って上がった後、嘘の様によくなりなんだったのだろうと思ったことがあるようです。
現在はなんともないようです。
単純X線検査では明らかな股関節の関節裂隙に左右左がみられ、右大腿骨骨頭には不整と硬化像が認められ一般的には進行期の変形性股関節症と診断される画像です。腰椎には軽度の変性所見がありますが、動かして問題になるような所見はありません。
腰椎の可動域はおおよそ年齢相応です。
しゃがんで立ち上がる動作をしてもらいます。
痛みはどうです?
今はなんともないです
痛みはないとのことなのですが、立ち上がりで右脚をかばってっている感じに見えます。
座って姿勢を整えて、さらにそれを持続しても特に症状はありません。
今の所、以前の座りっぱなしで右脚が痛くなったというエピソードとしゃがんだ状態から若干立ち上がりにくそうなくらいしかヒントはありません。まずはどこでもできそうな立ったままで腰椎を伸展するエクササイズをしっかりやってみることにしました。
やりかたをご説明して10回。先ほどと同じようにしゃがんで立ち上がってもらいます。
見た目はあまり変わっていません。
立ち上がる時どうでした?
なんともないです
結局診察室での症状は再現できないままでしたが、比較的頻回実施できそうな立位での腰椎伸展を宿題にすることにしました。
それから3週間後。
痛みはその後どうでした?
あれから長く歩いた時に少し右膝あたりに痛みがあるくらいで、振り向いた時の右足の付け根の痛みが全然感じなくなって嬉しいです!
それとこの前はさほど意識していないように見えたのですが、歩く時に右股関節に響くのが怖かったので捻らないよう恐々と右足を前に踏み出していたそうですが、今はもう普通に足が振り出せます。
しゃがんで立ち上がる動作も、かばっているような印象はなくなりました。
エクササイズは1セット5回くらいを毎日20セットくらい、暇さえあればやっていたそうです。
エクササイズのやり方をチェックします。
ポイントを押さえて丁寧にできていますが、さらにしっかりと伸ばすポイントなどご説明し、今後もエクササイズを続けていただくことにして、もし右膝の軽い痛みが残るようであればまた来院していただくようにご説明し卒業としました。
今回ご紹介したお話、いかがでしたでしょうか。
初診の時に症状が再現できなかったのだから、すでに治りかかていただけじゃないのか、そういう声も聞かれそうですね。
エクササイズを開始したタイミングと、自然に良くなって症状が出なくなったタイミングがたまたま一致しただけかもしれません。
そういう考えには全く異論はありません。
このお話をご紹介したかったのは、単純エックス線写真で進行期の変形性股関節症が確認された股関節であっても、痛みなどの日常生活に困るほどの症状がないことも稀ではないことをお話ししたかったからなのです。
もちろん全ての変形性股関節症の方がご紹介した方と同じように良くなるわけではありませんが、変形性股関節症や変形性膝関節症があり人工関節をすすめられていても、手術前に一度はマッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による評価を受けてみる価値があるということをお伝えできれば幸いです。