両膝をつくダンスの練習をしてから右膝が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回はダンスの後に右膝が痛くなり来院した30代女性のお話です。
長く座る仕事をするようになり、半年ほど続く右臀部痛と1ヶ月ほど続く右鼠径部痛で3ヶ月ほど前に来院したことがある方です。その際には腰椎を伸展する方向のエクササイズ指導を行い1ヶ月位で完治したことがあります。
その後は気づいたときに立位での腰椎伸展エクササイズ(EIS)を実施する程度になっていました。
一週間ほど前のこと、両手をついて両膝を強くつくようなダンスの練習があり、そのダンス練習の時にはなんともなかったのですが、家に帰って右膝が痛いのに気づきました。
その後、座っている姿勢から立ち上がるときやしゃがむとき、階段を降りるときなど痛みが続いています。
ダンスの時に床についていたのは膝小僧のあたりになりますが、痛みは膝蓋骨の上、大腿四頭筋の付着部あたりです。
診察室でも立った状態からしゃがみ込みで8点の痛みが再現されることを確認できました。
趣味とはいえ動きの激しいダンスをしているような方で、腰、膝の可動域は問題ありません。
以前は臀部と鼠径部の痛みで、今回は膝の痛みと痛みの部位は異なっているのですが、同じ右下肢の症状です。この情報は、私と同じくマッケンジー法による評価をしているセラピストの方はピンとくるところかもしれません。
マッケンジー法では膝の症状であっても腰椎のスクリーニングから行うことはこれまでにもお話ししてきましたが、まずは以前やっていたエクササイズをやってみて症状がどうなるのかを確認してみることにしました。
以前、脚の付け根が痛くなったときにやっていた体操をやってみましょうか
立ったままで10回、腰椎の伸展を自分なりに時々やっていた通りにやっていただきました。
さっきと同じようにしゃがんでから立ってみましょう
先程より深くしゃがんでいるのがわかります。
どうです?
さっきとは痛みが違います
さっきは8点くらいでしたが、今は?
5点くらいです
(EIS 10回 B)
良い印象ですから、今度はさらにしっかりと負荷をかける意識をするようにご説明して10回。
さっきと同じようにしゃがんでみましょうか
あっ、だいぶいいです!
何点くらい?
3点くらいかな、だいぶかわりました
(EIS エンドレンジを意識して10回 B)
エクササイズのポイントをお話して初回評価を終了しました。
今回のお話、いかがでしたか。
以前は臀部と鼠径部だった痛み、今回は膝なのに同じエクササイズで改善する?…ちょっと不思議な気がする人も多いのではないでしょうか。
実はこのようなことは決して稀ではなく、マッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による評価と治療を実施しているセラピストの間ではよく知られています。
日常的に繰り返される悪い姿勢や偏った体の動かし方などが、手足の様々な症状を作り出すことがあり、それらが脊椎の同じエクササイズで改善することもあることを今回のお話からお伝えできれば幸いです。
マッケンジー法・症例ノート【完全版】ペーパーバック版
マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。
この本ではマッケンジー法を取り入れた私の診療の様子をそのままご紹介していて、何らかの症状があってマッケンジー法による診療を受けてみたいとお考えの方はもちろんのこと、マッケンジー法ではどんな考え方をするのかということを知りたいという医療関係者、マッケンジー法を勉強しようと考えているセラピストやすでにマッケンジー法による診療を実践しているセラピストの皆様まで、私の実践しているマッケンジー法の考え方に触れられる今までになかったタイプの一冊です。