腰椎椎間板ヘルニアでブロック治療など受けたことがあります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右母趾の痛みで来院した60代男性のお話です。
お仕事は自営業で主に自宅で電話での対応をするようなお仕事をしています。もともと現場に出向くことが多かったのですが、一年半ほど前に左坐骨神経痛で動けなくなり、現在の働き方に落ち着いたそうです。整形外科の病院でブロック治療など受け、投薬など受けていました。当時はほとんど歩けないような状態だったようで、その頃は左殿部から下肢痛が主な症状だったのですが、時に両母趾が痛むこともあり、その痛み方も右だったり左だったり、あるときは両方といったぐあいにいろいろと変わっていたようです。その後徐々に歩けるようになり、今年の4ヶ月前くらいからウォーキングもはじめました。ウォーキングを始めた当初は10分くらい歩いていると左殿部から大腿の重い感じが出て歩けなくなっていました。それでも徐々に歩く距離は伸びて、最近では30分近く歩けるようになっていましたが、やはり左殿部から大腿の痛みは変わらなかったようです。
そんな一週間ほど前のある日のこと、右母趾が痛くなりました。思い当たるきっかけはありません。今回の痛み方は右母趾をつま先立ちするようにするときだけ痛く、下向きに曲げても痛みません。
痛みの場所ははっきりしていて、右母趾を他動背屈時にMP関節の背底両側、IP関節の足底側に限局した7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが走ります。周りに響く感じや痛みの他にしびれなど別の症状はありません。
局所の腫れや熱感などはなく、見た目は何も問題ない状態です。
座位のままもう一度つま先立ちのような動きで母趾の症状を確認すると、今度は3点くらいと先程よりやや軽い印象です。もう一度立っていただきつま先立ちのように指を曲げていただくとやはり7点の痛みが走ります。
まずは座位での姿勢を矯正して1分。
座位での痛みはあまり変わりません。立位でつま先を動かすと、
さっきより少しいいかな…
少し変わったかもという自覚があります。
腰椎の可動域には何も問題ないので、そのまま立ったままでしっかりと腰を伸展する動かし方をご説明し、そのまま続けて10回。
さっきと同じつま先曲げるのやってみましょう
あっ、さっきよりだいぶ痛くないです
さっきは7点くらいでしたが、今は?
3点くらいです
(EIS 10回 B 立位でのつま先曲げ 3点)
続けて、うつ伏せになっていただき、しっかりと腰に負荷をかけて伸ばし切る動きをやってみます。
トータル10回伸展してからもう一度立ち上がってもらい、同じつま先が痛む動かし方をやってもらいます。
だいぶ軽いです!
点数はどのくらい?
1点くらいですかね
(EIL w/sag 10回 B 立位でのつま先曲げ 1点)
リリカ、セレコックス、リマプロストアルファデクスなど長期にわたり服用しておられたようですが、飲み始めてから効いたのかお伺いしたところ、あまり効いている気がしなかったといわれます。
どこの整形外科でも薬出されるだけだったんですよ…
お薬を使うことがすべて悪いわけではないのですが、投薬をするのにはルールがあります。それは、まずは適応症に合う処方であること、そして漫然と投薬を続けるのではなく、効果を確認することです。この方は、マッケンジー法により評価したその場でこれまでの鎮痛剤より効いたという実感がありました。
投薬内容に急にやめると離脱症状を起こすことがあるおくすりがありますので、薬のやめ方をご説明して初回の評価を終了しました。
それから2週間後。
エクササイズはうつ伏せのやり方も立ってやるやり方もどちらも比較的こまめに実施できたそうです。
それで右母趾の症状はというと、初回では母趾の付け根まで痛かったのが、先っちょだけが痛い感じが残っているくらいで改善してきているという実感はあります。歩く時にはまだ痛いものの、以前のような足がつけないような状態ではありません。
もう一つ気づいたことがありました。それは、今回の右母趾の症状とは関係なく、何年も前からあった症状で、今回のエクササイズを始める前は10〜20分も歩いていると左殿部から下肢の痺れたような感じがでてきていたのが全くなくなったことでした。
現在の状態を確認してみると、つま先を床で踏みつけて趾先を背屈させる動作で5点の痛みが再現できます。
まずはエクササイズをどのようにやっておられたのか、ご自分のやり方でやって見せてもらいます。
5回の伸展が終わった後、
足の痛みどうですか?
さっきよりちょっとだけいいかな
(EIS 5回 B? 4点)
もう一つ、うつ伏せのエクササイズもやってみせていただきます。
この後お伺いすると、やはりさっきより少しだけいいようです。
(EIL 5回 B? 3点)
エクササイズをするにあたってのポイントを再度確認します。
「できるだけ」のところを意識しながらしっかりと立ってやるエクササイズをやってみます。
ここまではやってなかったかな…
痛みはさらに軽減します。
(EIS B 2点)
うつ伏せでやるエクササイズも、もう一度、腰に意識を集中して腰を伸ばすイメージでやってみます。
足先の痛み確認してみましょう
おお、だいぶ軽いですね!
(EIL B 1点以下)
一見するとちゃんとできているように見えるエクササイズでも、やり方の意識を変えるだけでその効果がガラリと変わることは珍しくありません。
それから2週間後。
もうすっかりいいです!
つま先立ちをする時に少しだけ気になるかなと言う程度の痛みで、通常の生活では全くなんともなくなったと報告いただきました。
加えて、以前は散歩していると必ず左脚の痛みがあったのが、どれだけ歩いてももう全く痛くなくなったようです。
一年以上続いていた症状があまりにも早く治ったことに驚いていると。
それに加え、今までは痛い時に痛み止めを飲むためになにか食べるということをしていたのが、痛み止めを飲まずにすむようになったぶん食べる量も減って体重も3kgも減ったそうです。
エクササイズもすでに生活の中に組み込まれていて習慣化しているようで、今後もエクササイズを続けることの大切さをご説明し、卒業としました。
エクササイズのやり方にはすべての人にとっての正解はありません。
人それぞれに、どこを動かそうとするのかを意識して動かしてみて、その反応をみてさらにどのように動かすと良い反応が得られるのかを探っていきます。
マッケンジー法・症例ノート【完全版】ペーパーバック版
マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。
この本ではマッケンジー法を取り入れた私の診療の様子をそのままご紹介していて、何らかの症状があってマッケンジー法による診療を受けてみたいとお考えの方はもちろんのこと、マッケンジー法ではどんな考え方をするのかということを知りたいという医療関係者、マッケンジー法を勉強しようと考えているセラピストやすでにマッケンジー法による診療を実践しているセラピストの皆様まで、私の実践しているマッケンジー法の考え方に触れられる今までになかったタイプの一冊です。