一年ほど前に左膝の人工関節の手術をうけ、今度は右と言われました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右膝が痛いという70代女性のお話です。
現役で働いていたころは立ち仕事をしていたそうです。50代の半ばからジャズダンスをしていたそうですが、10年ほど前から右膝の痛みを覚えるようになりました。数年前から今度は左膝が痛くなり、そちらの痛みが強いためある整形外科で変形性膝関節症の診断で症状の強い左膝から手術をすることになり、1年前に人工膝関節置換術を受けました。
その後、左膝の症状はそれなりにおさまっていたのですが、今度は右膝が痛くなり、そちらの病院で次は右膝の手術という話になり、手術をする前になにか他の治療はないものかと思っていたときにご近所の方から勧められて来院しました。
痛みの場所は右膝の内側で、歩きはじめ、階段の上り下りの第一歩目が特に痛いようですが、少し歩いていると痛みは若干和らぐようです。それでもしばらく歩いているとやはり痛みが強くなります。
単純X線写真(レントゲン写真)では腰椎に変性所見、右膝にも高度の変性所見(KL grade IV)を認めます。
まずは診察室で椅子から立ち座りを何度か繰り返してもらいます。
立ち上がるときより、こうやって座りかかるときに痛いです
座りかかった途中の中腰のときに右膝の内側に7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが再現されます。
マッケンジー法では膝の痛みであっても先に腰椎を評価することはこれまで症例ファイルをご覧頂いている皆様にはもうおなじみでしょうか。腰椎の可動域を確認すると、いずれの方向も中等度に制限されていますが、横に動かすときに多少腰の痛みがあります。
診察室では足踏みなどしても痛みがないようで、階段なら必ず痛いと言われるので、一緒に院内の階段のところに行って確認することにしました。
診察室を出て20〜30mほど歩いたところで、
あ、今痛いです
いつもの感じですか?
そうですね
最寄りの通行の邪魔にならないベンチのあるスペースまで歩いて、そこで検査の続きを行います。
まずは立ったままで腰を伸展する動かし方をご説明し、10回続けて腰椎の伸展をしてみます。
また歩いてみましょうか
痛くないです!
明らかな症状改善がみられましたので、階段はやめてそのまま少しだけ回り道をして診察室に戻りましたが、痛みはなくなった状態を維持できています。
宿題にするエクササイズのご説明をして初回評価終了しました。
これまでにも変形のある膝の痛みについて評価したお話は何度か取り上げて来ました。
私自身、以前は人工膝関節手術もしておりましたので、この方の進行した変形性膝関節症の画像所見を見ると手術しかないと考えていた時期がありました。その後、マッケンジー法を実践するようになってからも、画像上の異常がある場合には手術をしていた頃の先入観のほうが強く、半信半疑でマッケンジー法による脊椎の評価をしていたのですが、膝を痛がっている変形の強い膝の患者さんが腰椎の評価後に目の前で症状が半減、あるいはほとんど痛みがなくなり違和感程度にまで改善する人が決して稀ではないことはこれまでにもご紹介してきた通りです。
もちろん、マッケンジー法で症状が改善したとしても、膝の変形が治るわけではありませんから、例えば変形で膝が内反しているのをなんとかしたいというのが目的であれば人工膝関節がオプションになるでしょう。何をゴールに設定しているかによって選択する治療法は変わります。
もし、見かけではなく膝の痛みが良くなり歩けるようになりたいというのがゴールならば、症状、画像所見がそろっていても、人工膝関節手術を受けると決める前に、最寄りの国際マッケンジー協会認定セラピストのいる施設での評価を受けられることをおすすめいたします。
【参考文献】
※いずれのリンクも無料で全文が閲覧できます。
マッケンジー法・症例ノート【完全版】ペーパーバック版
マッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきた様々な症例の中から32話を選び、医学書のような難しい表現をできるだけ避け、雑誌やマンガ本を読む感覚でお気軽にマッケンジー法の世界を知っていただける本です。マッケンジー法を活用しているセラピストの皆さんにはもちろんのこと、一般の方にも読みやすいように各ページで使用されるマッケンジー法特有の表現などは別枠にイラストと解説を入れるなどして、用語の意味を同じページで確認して読み進められるような内容になっています。
この本ではマッケンジー法を取り入れた私の診療の様子をそのままご紹介していて、何らかの症状があってマッケンジー法による診療を受けてみたいとお考えの方はもちろんのこと、マッケンジー法ではどんな考え方をするのかということを知りたいという医療関係者、マッケンジー法を勉強しようと考えているセラピストやすでにマッケンジー法による診療を実践しているセラピストの皆様まで、私の実践しているマッケンジー法の考え方に触れられる今までになかったタイプの一冊です。