脳梗塞のリハビリ後に家に帰って数日後に右腕が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右上腕の痛みで来院された70代男性のお話です。
3ヶ月ほど前に脳梗塞を発症し、1ヶ月ほど前までリハビリのできる病院でリハビリをして、幸いあまり大きな麻痺を残さずに自宅に帰ることが出来たのですが、退院して2〜3日後から夜寝ているときに右腕が疼くようになりました。整骨院に行ったところ、筋肉の衰えのためと説明され、施術を受けたのですが症状が改善しないため来院しました。
夜中なはかり痛みが強く7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、日中に起きて動いている間は0.5点ほどであまり痛くありません。家ではソファに座りタブレットを見ることが多いとのことです。
単純X線検査では頚椎に変性があり、生理的前弯が失われたストレートネックの状態です。
お話を伺っている間も、0.5点かなという程度の痛みは常時あるようです。
まずは姿勢をしっかりと矯正してみますが、あまり変化はありません。
(姿勢矯正保持 NE)
頚椎の可動性を確認すると、いずれの方向も中等度に制限されていますが、首を動かしても症状に変化はなく0.5点のままです。
先程の姿勢を矯正するときの動き方や頚椎の動かし方をみると、全体的に動きが悪いのがわかります。
そこで、まずは座位のままでしっかりと脊椎を動かしてみます。過矯正からだらりとした状態に戻ることを10回ほどくりかえしてみますが、特に症状の変化はありません。
(SOC NE)
やはり頚椎から胸椎の動きが悪いようで、初回評価はここまでとして、まずはこのやり方でしっかりと背骨を動かすエクササイズを続けて夜の症状に変化があるのかを見てみることにしました。
それから4日後。
その後、夜の痛み具合はいかがでした?
この前、こちらに来た日から、夜中は痛みがなくて寝られるようになりました
4日前に受診した当日の夜から痛みで目覚めることはなくなったようです。
といっても、今もうっすらと痛みが0.5点と日中の症状はあまり変わりません。
エクササイズの実施状況はというと、お約束の一日5〜6セットはハードルが高かったようで、エクササイズは一日3セットくらいだったとのこと。
セット数が少なかったことについてご自分のお考えをお伺いしました。
すると、顎をしっかりと引く動作(RET)がうまくできなかったので、やりにくい感じがしてあまりやらなかったと言われます。
それでも奥様が声かけして頑張ってそれなりにやってもらったのが3セットのようです。
実際どうなのかエクササイズをチェックしてみます。
エクササイズのやり方をみると、たしかに顎の動かし方がうまく出来ていないのがわかります。
そこで、両手で顎を支えて胸を出すようなイメージで練習してもらいます。
体が硬く体が前に行きがちなので、ご自宅での練習を想定して付添で見えた奥様にご主人の顎を前に行かないように支えていただき、その状態でご主人に胸を前に出すような動きを数回続けてみます。
症状には特に影響はありません。
(RET w/op self NE)
かすかな症状は変わりないようですが、夜が眠られるようになり、もはや気になるほどの症状ではなくなっています。奥様のサポートも上手にできているようですので、今後も今のエクササイズを続けるメリットをご説明して卒業といたしました。
どういうエクササイズで良くなりそうなのかわかっても、それが最初からうまく出来る人ばかりではありません。エクササイズが自分だけではうまく出来ない場合、ご家族がサポートできる程度の負荷を強めるやり方を一緒にやってみて、安全性を確認してからそれをホームエクササイズとして実施していただくこともあります。
今回は奥様が声をかけてご主人のエクササイズを促し、それなりに症状は改善していますから、そのまま続けていただくだけでもよいかもしれません。しかし、エクササイズのやりにくさのために気が進まないと言われますので、奥様の手をお借りしてみることにしました。
マッケンジー法は自分で安全にできることをやっていただくことを基本としていますが、何かしらの理由でそれがやりにくい時には、別の手を考えます。今回の「奥様の手」はそんな一手なのです。
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