車の運転後など歩きはじめに膝が痛くなります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝の痛みで来院された60代男性のお話です。
重労働で重いものを抱えたり移動したりするような作業のお仕事を長年していて、現在も現役です。
3週間ほど前から、これといったきっかけもなく左膝が痛くなりました。
靴下を履く時など、膝を曲げると痛みがあり、痛みが続くため来院しました。
ドライブが趣味で、片道2時間程度のドライブを以前は週に一回程度はしていましたが、最近は月に一回くらいの頻度だったようです。車の運転のあと、立ち上がってから歩きはじめに痛みが強く、8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)ほどの強い痛みを覚えますが、歩いているとだんだんと痛みが和らいできて、その後は歩いているときは痛みはありません。膝の痛みの場所をうかがうと、自分で押して確認した後に、はっきりと「ここです」と膝の内側(脛骨内顆部の内側やや前方)に5点の痛みがあります。
座ったまま靴下を履くような動作をすると左膝が十分に曲げられない状態で5点の痛みが、また立ち上がる時にやはり左膝の内側と膝蓋骨のやや近位部あたりにも痛みがあることが確認できました。
姿勢はさほど悪くはない印象ですが、しっかりと姿勢を矯正して1分ほどしてから伺ってみます。
さっきの押して痛かったところをもう一回押してもらっていいですか?
あぁ、さっきより少しいいかもですね
立ってもらいます。
さっき立ち上がったときと比べて痛みはどうでした?
ちょっとだけ軽いような気がします
そのままたった状態で腰椎の可動域をチェックします。
すると、腰を横に動かす動作で左膝の内側の痛みが出ることがわかりました。
(LSG P左膝内側痛 5点)
お元気で普段から重労働なさっている方ですので、まずは立ったままで腰椎をしっかりと一回伸展してみます。
少し左膝に来ました
戻った後に痛み残ってないですか?
大丈夫です
痛みが強くならないことを確認しつつ、そのまま続けて10回。
もう一回座ってさっきの痛かったところを押してみましょうか
さっきよりだいぶ痛くないです
立ち上がるのはどうでしょう?
さっきより立ちやすいです
良い印象ですね。体力もある方ですので、今度は診察台にうつ伏せになって腰椎をしっかりと伸展する負荷をかけて反応を見てみることにします。
まずは一回、膝の症状は誘発されないことを確認し、続けて10回終わってからもう一度椅子に座ってもらい、痛いところを押してもらいます。すると、こんどは探すようにあちこち押しながら、
さっき痛かったのはここってわかるんですが、今は痛くないです!
立ち上がってみましょう
全然痛くないです!
もう一度座ってもらい、最初にためした靴下を履く動作をやってみます。するとより深く膝が曲がっているのがわかります。
まだ少し痛いですが、膝がすごく曲げやすくなりました!
もとと同じ位の曲げ方ではもはや痛みはありませんが、よりしっかりと曲げると痛みが少しあるという感じのようです。
方向性は見えましたので、腰椎の伸展エクササイズを宿題にして初回の評価を終了しました。
後でお話ししていて聞き出せたのですが、以前、右膝が同じように痛くなったことがあり、そのときにはかかりつけの内科の先生から「歳のせいだ」と言われ、痛み止めを処方されて数日で良くなったことがあったそうです。
本人は今回の痛みが3週間も続いているので、いよいよ「歳のせい」が来たかという気持ちで受診したようですが、マッケンジー法による評価の結果は腰椎の伸展を繰り返した直後に症状が改善していますから、腰椎に関連した膝痛であったことは間違いないと思われます。
患者さん自身が自分の症状について「歳のせい」だと言われることもありますし、医療者からそう言われたという話もよく聞きます。
そもそも歳のせいって、何なのでしょうね。
本当に歳のせいなのか…たとえそう思ったとしても、そう言われたとしても、このお話を読んだ皆さんにはマッケンジー法による評価を一度は受けてみたいと思っていただければ幸いです。
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