case_241 後頚部痛

部活をやめてから数年続く首の痛み

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は後頚部痛のある学生さんのお話です。

糸島医師会病院ではリハビリテーション関係の学生さんについても臨床研修の受け入れをしています。
理学療法士を目指している学生さんが研修で来ていたので、指導しているリハビリスタッフに時間をもらい、マッケンジー法のミニレクチャーをさせてもらいました。
概要を簡単に説明したあとに、事前情報で首が痛いとことでしたので、マッケンジー法による評価を体験してもらいます。
首が痛いといっても、日によって症状が変わるようで痛みがないときには全く何ともなく、痛いときには一日中痛いこともあります。今日は調子良いようで今は何ともありません。
寝ているときに横向きになったときに頭が横に倒れると首が痛くなるので、かなり高いクッションのようなものを枕にして寝ています。
それでも朝起きたときはほぼ確実に痛みがあり、日中動いているとだんだんとよくなることを毎日繰り返しているようです。

今現在の症状はというと……何ともありません。

たまたま症状が無いときに受診した患者さんはある意味評価が難しいことは以前にもお話したことがありますが、マッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)では特定の運動負荷に対してどのような反応があるのかを確認して次にやることを決めるような道の選び方をする方法なので、無症状というのはある意味手強いのです。

高校生までサッカーをしていて、サッカーをしていた頃には首の痛みを覚えたことはなかったようですが、サッカーをやめてからまもなく痛みを感じるようになりました。

B男さん
B男さん

サッカーやってる頃はヘディングもするので首のストレッチをよくやってたからですかね〜

どんなストレッチをやっていたのか聞くと、しっかり側屈するストレッチと首をしっかり回すストレッチをやって見せてくれました。

サッカーはコロナの影響でスポーツイベントが自粛になり機会がめっきり減って2ヶ月に1回程度。その代わりには特に運動もしていません。

家ではソファの座面の前側を背もたれにして地べたにだらりと座ってテレビをみるようなことが多いようです。

椅子にすわった状態で姿勢のチェックをします。

背筋は比較的伸びていますが、姿勢としては普通の姿勢です。

まずはしっかりと姿勢を整えてみますが、特に痛みはありません。

頚椎の可動域を確認します。

すると、顎をしっかりと前に出す動きと顎を胸に引っ付けるように頚椎を屈曲する動きをするときに後頚部に6点程度のいつもの痛みと同じような痛みが再現されることを確認できました。

このように痛みが再現できてベースラインが取れたとき、マッケンジー法による評価をする側としてはある意味ほっとします。

まずはしっかりと姿勢を整えてからさらに顎をしっかりと引く動作を5回繰り返してみます。

佛坂
佛坂

さっきと同じように顎出すのやってみようか

B男さん
B男さん

だいぶいいです

佛坂
佛坂

顎を下げるのはどうかな

B男さん
B男さん

これはもう痛くないですね

はっきりとした良い反応がありましたから、これを宿題にしてもよいのですが、もともとサッカーを部活でやっていて、痛くないときには何ともない、健康な学生さんですから、もう少し負荷を上げたエクササイズもやってみることにしました。

今度は顎を引いたところからできるところまでしっかりと頚椎をトータル5回伸展してみます。

佛坂
佛坂

さっきの顎を前に出すのやってみようか

B男さん
B男さん

もう全く痛くないです!

(RET+EXT w/op self abolish B)

最初に確認したときより、さらに前に頭を出しても全く症状がありません。
もちろん他の動きでも症状が誘発されないことを確認しました。

最後に実施したエクササイズを宿題にして2日後。

リハビリ室でその後どうかと尋ねると、朝起きたときの症状も少しずつ良いようだとのことでした。

同じ理学療法士でも将来はスポーツ系のトレーナーを志す学生さんで、今回のその場で自分の症状が変わることを体験できたことで、マッケンジー法にとても興味を持ってくれたようで、将来マッケンジー法も身につけるべきと感じてもらえたようです。

そこで、これから理学療法士として歩んでいく彼に一つだけアドバイスをしておきました。

それはマッケンジー法の認定資格をとる前に、最低でも数年くらいは通常の徒手を中心とした一般的な理学療法士の研修を積んでほしいということです。

それは、一般的な理学療法がどのような考え方で実施されているのかを体得することなくマッケンジー法を先に身につけてしまうと、マッケンジー法のどこが優れているのかがわかりにくく、また、他の治療法を理解しにくいのです。

どのような世界にも共通していることだとは思いますが、自分が主軸に据えているやり方だけではなく、それだけではカバーできない弱点とそれを補いうる他の方法の優れている点も知ることで、本当の意味でその道のプロになっていけるのだと考えています。


マッケンジー法・症例ノート【完全版】ペーパーバック版のご紹介

マッケンジー法・症例ノート【完全版】ペーパーバック版のご紹介

一話ずつKindle版電子書籍でご紹介してきた「マッケンジー法・症例ノート」全32話を一冊の本にまとめました。

マッケンジー法で評価・治療した方々の症状が、どのような経過で改善したのかをご紹介しているブログ「マッケンジー法・症例ファイル」に掲載してきたお話の中から抜粋した32話。医学書のような難しい言い回しをできるだけ避けてマッケンジー法で使われる専門用語には欄外に解説を入れ、文字だけではお伝えするのが難しかった特殊な体の動かし方についても挿絵を入れながらまとめ直したもので、医学的知識がない一般の方でも短編マンガ感覚で気軽に読んでいただけると思います。

腰だけでなく、首、肩、肘、手、股、膝、足など様々な症例を取り上げておりますので、何らかの症状のある一般の方には、マッケンジー法による診療の雰囲気をお伝えできると思います。

またマッケンジー法の基本的な考え方についてもご紹介しているので、これからマッケンジー法を学んでみたい、あるいは今まさに認定資格取得を目指し研修会でマッケンジー法を学んでいるセラピストなどの医療関係の皆様については、この本を通じてマッケンジー法の世界にいっそう興味を持っていただけるのではないかと思います。

全32話の【完全版】では図説や表現の一部見直しを行い、日常診療でよく経験される腱鞘炎のような症状であって腱鞘炎ではない「腱鞘炎モドキ」の解説文を追加し、「あとがき」でこの本を出版するに至った私の思いなど書き加えさせていただきました。

この本が紙の本として出版されることで、これまで電子書籍ではアクセスできなかった皆様にもご覧いただけるようになりましたことを心より嬉しく思っております。この本を通して何らかの形で皆様のお役に立てましたら幸いです。