半年ほど前に腱鞘炎と診断され注射の治療をうけたことがあります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左母指の痛みで受診した30代女性のお話です。
デスクワークのためPC作業が多いお仕事で、子育てが忙しく趣味の時間も無いような方です。
片頭痛の自病があり、以前はチカチカする感じもあったのですが、今はさほどでなく、PC作業が続いたときなどに痛むことがあり、ロキソニンで対応しています。
半年ほど前に、今回と同様の症状があり、近くの整形外科にかかって腱鞘炎と診断されてケナコルト(合成副腎皮質ホルモン剤)とカルボカイン(局所麻酔薬)の注射を受けて、3日ほどで良くなったことがあります。
今回は一週間ほど前からこれといったきっかけもなく同様の症状が再発し、湿布などしていましたが良くならないため受診となりました。
見ると、左母指の近位部に湿布を貼った状態です。痛む範囲はMP関節(親指の付け根の関節)からCM関節(親指の手首に近い関節)まで、ちょうど中手骨背側あたりで、見るからに腱鞘炎という感じですね。
ドライヤーのスライドスイッチや髪結い動作、フライパンを持つ動作などで痛みがあります。
現在も指を曲げ伸ばししてもらうと、少しためらいながら左母指をゆっくりと途中まで曲げて6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが再現できることを確認しました。
姿勢はさほど悪いことはないのですが、日常的にPC作業が多いという情報を得ていますから、まずは姿勢をしっかりと矯正して保持してみます。
指曲げてみましょうか?
何度か曲げ伸ばししながら確認し、
さっきよりは少しいいかも…
(姿勢矯正保持 B?)
少なくとも悪くないようです。
見ていると、顎を後ろに引く動作がしにくそうなので、やり方を細かく調整して極端に背筋を伸ばす動作を繰り返してみます。
指の痛みどうです?
先程よりかなり深く曲げ伸ばししながら、
だいぶいいです
さっきは6点だったけど、今は何点くらい?
3点くらいです
(SOC 10回 B 6点→3点)
もともと首に何も問題のないお元気な方ですので、さらに顎を引く動作の修正を入れながら、しっかりと5回伸展してからお尋ねします。
痛みはどうです?
しっかりと曲げ伸ばし確認してもらいますが、最初の恐る恐るの感じがなくしっかりと曲げ伸ばしできているのがわかります。
ほぼ無いです!
(RET EXT 5回 3 → 0)
湿布より効いたでしょ?
はい!
母指を動かすと痛くて、症状としては腱鞘炎のようではあるのですが、指のストレッチではなく、首まわりのエクササイズを実施してその直後に痛みが消えてしまったのですから、腱鞘炎ではなく「腱鞘炎モドキ」と思うのですが、皆さんはどうお考えになるでしょうか。
このような腱鞘炎モドキの場合にも、局所の外用薬や注射の治療が有効な場合もあるかもしれません。しかし、お薬を使う治療を先にするのか、体を動かすことを先にやってみるのか…。
皆さんがこの方と同じような症状でしたらどちらを先にされるでしょうか。
腱鞘炎モドキとは?
一見すると腱鞘炎のようで局所の湿布や注射で治療され、なかなか治らないことがあります。
このようなものの中には脊椎のエクササイズで症状が改善する病態があることがわかっています。
このような病態を「腱鞘炎モドキ」として症例ファイルでご紹介しています。
詳しくは腱鞘炎モドキについて解説したリンク先の解説ページをご覧ください。