痛みのために5分も走ることができません
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右背部から右側胸部の痛みで来院した50代男性のお話です。
パーキンソン病の自病をお持ちですが、体を動かすのはお好きな方で、趣味はマラソンです。今年になって走るときに右腕の動かしにくさを感じるようになりました。走るときだけでなく、早歩きする時にも背中の右側に痛みを感じるようになり、3〜4週間前から走るときの背中の痛みがひどくなり、ルームランナーで5分も走れなくなりました。
右腕の振り具合で痛いとのことですからどのように動かすと症状が出るのか確認してみると、今はバンザイの動作で右脇に2点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあり、同じ動作で同じ痛みが再現できることを確認しました。
座ってお話しながら姿勢を観察すると、猫背なのですが、そのことは以前から自覚しています。
まずはしっかりと姿勢を矯正して保持すること1分。
バンザイしてみましょうか
まだ背中の右側が張った感じはありますが、さっきみたいな痛みはないです
頚椎の可動域を確認すると、動きは良いのですが、右側に首を倒すと2点の右背部痛があります。
姿勢を矯正した反応がいい印象でしたので、座ったままでしっかりと脊椎を伸ばす動きを10回繰り返してみます。
さっきと同じように右側に首を曲げてみましょう
今は…なんともないですね…
(SOC 10回 B)
エクササイズのやり方を再度確認し、初回評価を終了しました。
それから3日後。
自覚的にはまだあまりかわらないようです。
でも、初診当日は少し良かったようで、10分ほどで少し痛くなり、その後も無理して走ってみたら20分くらいで痛みが強くなったそうです。
エクササイズは1時間ごとくらいに頑張ったとのこと。
エクササイズのやり方を確認します。
動き自体はできているのですが、さほどきつそうには見えません。
実は同じ動きでもしっかりと「できるだけ」動かすことで違いが出てくることがよくあります。
このしっかりと動かすことの大切さをご説明しました。
それから1週間後。
普通に走れるようになって驚いてます!
もはや10分どころか50分走っても痛みは感じなくなったそうで、あらためて運動できる喜びを感じていると嬉しそうに話されます。
といっても、まだ右背部にハリ感は若干残っているようですが、以前より良くなっています。
このまま良くなっていきそうであれば今日で卒業でいいと思いますよ
自分で頑張ってみます!
まだ症状は完全にはなくなっていませんが、エクササイズで改善するという自信があるようですから、卒業にしました。
これまでにもマッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきましたが、症状が完全になくなるまでフォローが必要なわけではありません。
皆さんも道に迷った時、人に道を訪ねて進む方向がわかったら一人で歩いていけますよね?
マッケンジー法では、最終的に医療者に頼らない自己管理を目指します。
どこまで道案内をするのかは同じマッケンジー法の認定資格を持っているセラピストでも考え方は多少異なるとは思いますが、症状の改善できる方向へ自分で歩いていける人はたとえ症状が完治していなくても、卒業にしても問題ないと私は考えていますが、皆さんはどうお考えになるでしょうか。