3年前から両膝の痛みがあり軟骨がボロボロではないかと心配です
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両膝の痛みで来院した40代女性のお話です。
鮮魚を扱う立ちっぱなしの仕事をしています。若い頃から猫背で、座るときにはあぐらが多かったようです。3年ほど前に友人とちょっとふざけて走ったことがあり、それから1ヶ月ほどして右膝が痛くなりました。以後、痛みが徐々に強くなり、右膝をかばって歩いていたら、今度は左膝の内側が痛くなりました。その頃からあぐらで座れなくなったことを覚えています。整形外科にかかり、膝の軟骨がすり減っていると言われて痛み止めを処方されたのですが効いた感じがなく、両膝の水を抜いたり関節注射の治療を受けてきましたが、痛みが良くなることはありませんでした。長く座った状態から立ち上がった直後などとても強い痛みがあり、ものに捕まりながら立ち上がっています。動いていると少しずつ楽にはなるのですが、ずっと動き続けているとまた痛くなるようです。階段の上り下りでも痛みます。最近では寝ているときにも寝返りのときに膝が痛くて目が覚めることがあります。
糖尿病、高血圧の治療中ですが、コントロールはさほど悪くありません。
この3年間、あまりにも両膝の痛みが強いため、きっと両膝はボロボロではないかと心配で来院したということでしたので、両膝の単純X線写真も撮影してみましたが、骨棘の形成は認めるものの、関節裂隙は比較的よく保たれています。
脊椎には骨過形成傾向がありますが、動かして問題になりそうな病変などはありません。
座ったまましばらくお話した後に伺います。
いまこうして座っている状態で膝の症状ってありますか?
そうですね…右膝がすこし違和感みたいな感じがあります
座っていても右膝に4点(考えうる最大の痛みが10点満点として)くらいの痛みのような違和感があるようです。
この状態から立ち上がってみて痛みを確認すると、立つときには痛みのためゆっくりと立ち上がる感じで立ち上がり、両膝の痛みは7点まで強くなるようです。
まずは姿勢を矯正して保持し、一分ほどしてから反応を確認します。
もう一度立ち上がってみましょうか
さっきより痛くないです
何点くらい?
4点くらいです
(姿勢矯正保持 B)
先程より立ち上がりがスムーズになっていることも見て取れました。
腰椎の可動域を確認すると、いずれの方向も重度制限されていて、伸展のときに腰痛、両膝に痛みがあり、横に動かす動きでは腰痛があります。
これまでの生活状況と姿勢矯正に対する反応などを参考にして腰椎の伸展方向の確認をしてみますが、先程立ったままの状態で腰をそらすと痛みがあったので、まずは座位で腰をしっかりと伸ばすことを10回やってみます。
さっきの4点くらいの痛み覚えてますよね?もう一回立ってみましょうか
大丈夫です!
何点くらい?
2点くらいです!
だいぶいいですね!
(座位でSOC 10回 B)
さらにあと5回、よりしっかりと腰を伸ばす意識で動かしてみます。
立ち上がりは1点にまで改善しました。
そして、腰椎の可動域をみたときに伸展すると腰痛、膝痛があったのですが、もう一度立った状態で腰椎の伸展をしてみると、さきほどよりぐっと腰を反らせるようになっていることがわかります。
さきほどは伸ばしたときに腰が痛かったのですが、その腰痛も今回は無いようです。
腰をしっかりと伸展する動きを10回続けてみます。
一旦座って、また立ち上がってみましょうか
痛くないです!
(EIS 10回 B)
もし膝の軟骨の問題だったら、腰を動かしただけで痛みがなくなることは無いでしょうね
自分の膝がどれだけぼろぼろなんだろうと不安だったんですが、膝の問題じゃないとわかってスッキリしました!
これまで膝の問題だとばかり思っていた両膝の症状。それがマッケンジー法で評価した結果、膝ではなく腰を動かすことで症状が改善することを体験し、とても嬉しそうに言われました。
もちろん、この方の単純X線写真では骨棘の形成も見られますし、一般的には変形性膝関節症として治療されることが多いと思います。しかし、最近では画像所見と症状とが必ずしも因果関係にないことが知られるようになってきました。
マッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による初回評価の流れを振り返り、私はこの方の膝の痛みが膝の変形とは関連が無いと考えましたが、皆様はどのようにお考えになるでしょうか。
【参考文献】