case_221 左脇痛・右臀部痛

腫瘍の手術前から術後も続いている脇の痛み

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左脇と右殿部の痛みがある60代男性のお話です。

事務職で電車通勤30分、家に戻るとテレビはさほど見ないものの、パソコン作業は家でもかなり長時間というかなり座りっぱなしの生活のようです。
何年も前から左脇に少し違和感をおぼえることがあったのですが、3年半ほど前に、押入れの右下に入っている重い荷物を左へ引き出すように持ち上げたとき左脇の痛みが強くなり、その夜は痛みで寝られませんでした。その後、症状が続くためいくつかの整形外科にかかったのですが肉離れだとか筋肉痛だとか言われたようです。その後、内科にかかったときに、腫瘍を疑われて脊椎の手術のできる基幹病院へ紹介され、検査の結果、神経鞘腫の診断で手術となりました。術後は合併症などなく問題はなかったものの、術前からの左脇の症状は術後も変わらなかったようです。

また、1年ほど前から右殿部あたりが痛くなりました。これについては近くの整形外科にかかり、腰が固くなっているのをストレッチするやり方として長座で座り、片脚を伸ばしたまま反対側の膝を曲げて下腿を太ももの上に乗せて前屈するようなストレッチを教えてもらったようです。とても真面目な方できちんと実施していたのですが、症状はむしろ悪くなっているように感じています。

左脇の痛みは5-6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、右殿部は3-4点、痛みはいずれも常にあるようです。
痛みの程度は低気圧が近づくと悪いように感じていますが、日常生活動作についてはこれといった悪くなる動作はありません。歩きすぎたからといって悪くなることはなく、むしろ長く座っていると悪くなると自覚しています。
家ではパソコンに向かっている事が多く、左脚を伸ばして右前のPCに向かうような座り方をする癖があります。

単純X線写真では胸椎の腫瘍摘出の際に下位胸椎が部分的に固定されていますが、3年以上前の固定で現在も半年おき程度のフォローを受けている程度ですから動かして問題になるものはなさそうです。

座っている姿勢はやや猫背で、普段から重いものを持った翌日は背中が痛くなり、背中の筋肉が弱っていると感じています。

佛坂
佛坂

いま、意識せずに座っている状態で、左脇と右のお尻の症状はどのくらいでしょうか?

B男さん
B男さん

今は、どちらも1−2点くらいでしょうかね

姿勢を矯正するポイントをご説明してしっかりと姿勢を整えて1分。

佛坂
佛坂

左脇と右のお尻あたりの痛みはどうです?

B男さん
B男さん

今は…左脇は0かな、右のお尻は0.5点くらいです

(姿勢矯正保持 B)

今度は立っていただき、腰椎の可動域を確認します。
屈曲と伸展は重度制限されていますが、動かして痛みが強くなることはありません。

これまで座ることの多い生活だったこととリハビリでは屈曲のストレッチを指導され続けていたというお話、姿勢の矯正保持で良い反応が見られたことなどから、まずは伸展方向の動きに対する反応を確認してみることにします。
立ったままで腰椎の伸展をするポイントなどご説明して続けて10回。
軽く足踏みなどして少しならしてからお伺いします。

佛坂
佛坂

脇とお尻の痛みはどうです?

B男さん
B男さん

脇の痛みは無いですね…お尻は0.5点かな

(EIS B)

今回は神経鞘腫の手術を受けた方のお話でしたが、自覚症状としての左脇の痛みは脊椎の手術後も変わりはなかったようです。
そしてマッケンジー法による評価の際、最初にお伺いしたときには、痛みは左脇は5-6点、右殿部は3-4点で、常に痛いと言われましたが、実際には診察室での評価中お伺いするごとに痛くないときもある事がわかりました。

マッケンジー法では症状について痛みの場所だけではなく、痛みの出る動作やタイミングなどかなり細かく伺います。ある痛みが常にあると感じていても、その痛みをよく観察してみると、実はその痛みは変化していることが少なくありません。そのような変化を患者さんとの対話、評価の中で探り出し、その情報をもとに適切と判断される方向に運動の負荷を加えてみると、症状がたとえ数年来の痛みであったとしてもその場で変わることもあるということを今回のお話からお伝えできれば幸いです。

軟部腫瘍診療ガイドライン2020改定第3版

神経鞘腫(シュワン細胞腫)Schwannoma(日本神経病理学会HP)