5年ほど前から右首筋から右肩が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は首から肩にかけての痛みがあるという70代女性のお話です。
5年ほど前から、特にこれといって思い当たるきっかけもなく、少しずつ右首筋から右腕にかけての痛みを覚えるようになりました。
前方のものを取ろうと手を前に出すときや、右手を外側から上に上げる動作で痛みがあります。しばらく通っていた整形外科は、ご主人が病気になって運転できなくなり通えなくなったため、2年前から近くの整形外科にかかって治療を受けていますが、痛みはあまりかわりません。
じっと動かさないでいるときも2点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みを感じます。痛みの出る動作をすると5点の痛みがあります。
頚椎の単純X線写真では下位頚椎の後弯変形がみられます。
姿勢はやや頭の前に出た猫背の状態です。
まずは姿勢をしっかりと矯正して保持してみます。
さきほどの右肩の少しだけ痛い感じ、今どうですか?
少しだけいいかな…
あまりはっきりしませんが、少なくとも悪い反応はなさそうです。
頚椎の動きには問題ありませんので、座ったままでさらにしっかりと極端に良い姿勢とだらりとした姿勢を10回繰り返してみます。
前に手を伸ばすのやってみましょうか
あっ、さっきより痛くないです!
何点くらい?
何度か動かして確認しながら、
…2点くらい…です
先程5点ほどあった痛みが半減以下ですから、エクササイズの方向性は決まりました。
それから2週間後。
首の右側に感じていた痛みはすっかりよくなったようです。
前方のリーチ動作での痛みを確認すると、まだ3点。
エクササイズをどのようにやっていたのかチェックしてみます。
いつもの通り、5回。
さきほどと同じように前方のリーチをしてもらうとちょっぴりいいかなという程度です。
(SOC B?)
もう少ししっかり伸展の負荷をかけてみることにします。
デスクに両肘をついて顎をささえていただき、さらに頚椎から胸椎までしっかりと伸展するやりかたをご説明して5回。
同じ動作をやってみます。
だいぶいいです
(RET w/op self B)
はっきりとした良い反応が見られましたので、この負荷を強めにしたエクササイズもできるときにやっていただくようにしました。
それから2週間後、初診から一ヶ月になります。
もうほとんどよいようです。
それでも時々違和感を感じることはあるようで、違和感を感じたときにはすぐに体操すると良くなるようです。エクササイズを始めた頃に感じていた軽い腰の痛みはあまり感じなくなりました。右腕での前方リーチは楽にできるようになったようです。
仏様のご飯も前は左手で出してたんですが、今は右手で上げられるようになったんですよ!
日常生活のちょっとしたことでも出来るようになるととても嬉しいものです。
エクササイズをチェックしてみます。どこに意識を集中してやるのかなどポイントを再度確認します。
もう大丈夫でしょうかね?
大丈夫だと思います!
今の違和感すわら感じなくなっても、エクササイズは続けるようにおすすめし卒業としました。
高齢で肩が痛い人に多く見られる診断名に、五十肩、肩腱板断裂、変形性肩関節症などがあります。いずれも肩が痛いという患者さんがこれまで何と診断されたのかお伺いするときによく聞く診断名です。実際、このような肩の診断名で肩の治療を受けているという人が多いのではないでしょうか。
しかし、この方の場合、3年来の首筋から右肩の症状でしたが、マッケンジー法で評価した結果は頚椎、あるいは頚椎と胸椎に関連した症状であったと考えられる経過でした。
肩の治療を受けているけど、なかなか治らないというとき、それはひょっとしたら肩の問題ではないのかもしれません。治療を続けているのになかなか治らないという肩の痛み…一度はお近くのマッケンジー法による評価をしているセラピストの在籍する施設で評価を受けてみることをおすすめいたします。