久しぶりのバドミントン、入念なストレッチをしたのですが…
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝が痛くて来院した70代女性のお話です。
かなり前から腰椎椎間板ヘルニアがあり、左下肢が痛かった時期もあります。7ヶ月ほど前のこと、コロナのため長期間のブランクの後にバドミントンを始めた時、久しぶりということもあり入念なストレッチをしました。すこし前傾姿勢でしゃがんで左右に体をゆするなどのウォームアップも行い、バドミントンは問題なくできたのですが、その翌日から左下腿が痛くなりました。
左足を踏み込んだ時など左膝から下腿外側に痛みが響きます。
また、開脚での前屈ストレッチを行うと、左臀部が痛いことにも気づきました。
現時点での痛みを確認すると、踏み込み4点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、開脚7点、立位で左膝伸展7点の痛みがありましたので、これらをベースラインにして評価を続けます。
まずは姿勢を矯正して1分。
立って膝を伸ばすときの痛みがすこしいいようです。
(姿勢矯正保持 B?)
腰椎の可動域を確認すると、腰を右にずらす動きで左膝の外側に少しだけ痛みが走ります。
(右SG 軽度制限 左膝外側に少し響く 2点)
70代といっても、バドミントンをするような元気な方ですから、立ったままで腰をしっかりと伸ばす動きを10回繰り返してみます。
さっきの膝をぴーんと伸ばすのやってみましょうか
痛くないです!
先程踏み込みで痛みがありましたが、踏み込みはもう大丈夫のようです。
左膝のけんけんは?
先程まで踏み込みでも痛かったので、けんけんはさすがに躊躇されましたが、思い切ってやってみると、
あっ、できた!
もう痛みはないようです。
腰椎を伸展するエクササイズとバドミントンのときに痛みがどうなるのか確認することを宿題にして初回評価を終了しました。
それから4日後。
エクササイズをやればいいけど、またしばらくすると痛くなるようです。
週末にすこしバドミントンをやりすぎたのか左膝の痛みが少し強くなったと言われます。
お約束のエクササイズをどのようにしていたのかをチェックしてみます。
立ったままで腰を伸展するときに、少し体が後ろに倒れがちで、そのバランスを保とうとしているようで、しっかりとできるところまで動かせてない印象です。
そこで、バランスをとりやすいように腰を前に出すイメージでやるやり方をご説明し、もう1セットやってみます。
膝の張った感じが軽くなりました
(EIS B 膝の張った感じ軽減)
バドミントンは数時間の間に数ゲーム参加するようで、ゲームの間には休憩時間もあるようなので、ゲームに入る前後にエクササイズをするアドバイスを加えました。
それから10日後、初診から2週間になります。
もう、ほとんどよいようで、日常生活では全く意識しません。
バドミントンの時に少しかばうような感じがあるようですが、それは心の問題のように感じているそうです。
しゃがんで立ち上がったり、左片足で腰を下げたりしてみましたが、もはや左膝の痛みは誘発されません。
これからも姿勢のこと、エクササイズのことを忘れずに続けていただくようにお話して卒業としました。
70代女性が足を踏み込むときに膝が痛いと訴えているのを聞くと、変形性膝関節症という病名がまずは思い浮かぶのではないでしょうか。
今回は膝のX線写真は撮影していませんが、撮影すればおそらく多少の変形は見られるでしょう。しかし、最近では画像所見と症状とが必ずしも因果関係にはないということが知られるようになりました。(※参考文献)実際、この方についてもマッケンジー法により評価した結果、腰椎の伸展エクササイズで良くなるタイプの膝の痛みだったことがわかります。
これまでにも膝の痛みが腰椎のエクササイズで改善したというお話はマッケンジー法・症例ファイルでご紹介してきましたとおり、稀ではない、というより、よくあるお話なのです。変形性膝関節症という診断で痛み止めを処方され、あるいはヒアルロン酸の関節注射を続けているけどなかなか良くならないという症状、一度はマッケンジー法による評価を受けてみる価値があるということをお伝えできれば幸いです。
【参考文献】