case_218 左臀部痛

左臀部の症状がメインだったのですが、左手関節の痛みもあります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左臀部痛、左足関節しびれで来院し、お話を伺っているときに手首も痛いとわかった70代男性のお話です。

70代といっても、この方は毎日7000歩も歩いている、とてもお元気な方です。ある大きな整形外科の病院にかかったことがあり、腰のヘルニアと言われて注射による治療を受けたこともあります。そちらからお住まいに近い整形外科を紹介されて牽引などの治療を受けたのですが、あまり効果はありませんでした。2〜3年前から左足のしびれも感じるようになり、何か負荷のかかる作業をすると腰が痛くなるためコルセットをしています。コルセットは習慣になっているようで寝るときもしているのを看護師の娘さんから怒られるそうです。

現時点の症状を確認したところ、今はなんともないそうで、どうやら草取りなど長く座った後に立ち上がるときなどが悪いようで常時痛いわけではありません。このあたり、マッケンジー法・症例ファイルをこれまでご覧頂いている皆さんにはピンとくるあたりかもしれません。

単純X線写真では同年代の方と比較してむしろ変形の少ない状態です。

現在症状がないと言われますが、腰椎の可動域を確認すると、左側に腰をずらしたときに腰の左側に6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが確認できました。この方のように、そのときに症状がないと言われる場合でも、普段自分ではしない動きで症状が確認できることがあります。

腰を曲げた作業を続けた後に症状が悪いという情報もあわせて腰椎の伸展に対する反応をみることにします。

活動性の高いお元気な方ですから、そのまま立った状態での評価をしてみます。

立ったままで体のバランスを取りながらしっかりと腰を伸ばす伸ばし方をご説明し、まずは一回。
痛みがないことを確認し、続けてトータル10回伸展してから、また元の位置にもどり、先程の腰を左にずらす動きをしてみます。

佛坂
佛坂

さっきはこの動きが痛かったんですが、いまはどうですか?

B男さん
B男さん

んっ?……痛くないですね!

(EIS B)

腰を横に動かすときの可動域も明らかに改善しています。

いい印象ですので、日常生活の注意点ややるべきエクササイズの確認などを行った後、他に気になることはないかお尋ねしたところ、

B男さん
B男さん

実は左手首の腱鞘炎があるんです

左手首に湿布を貼っている部分を擦りながら言われました。

B男さん
B男さん

抱えるようなときに痛いんですが、痛くないときもあるんですよ

このあたりでピンとくる方は、もうすっかりマッケンジー法通ですね!

佛坂
佛坂

それじゃ、このデスクの下側から抱えるような動作をしてみてもらえます?

診察室のデスクを下から抱える動作をしてもらいます。

B男さん
B男さん

…これは痛くないですね

右手で左手を上から抑えて抵抗しながら動かしても痛みません。

B男さん
B男さん

あぁ、こうやって手首を曲げたら今は痛いですね

左手首を屈曲する動作で5点の痛みが再現できることを確認しました。

若干の猫背がありますが、頚椎の可動域には問題なく、首の痛みもありません。
しっかりと顎を引くような動きのやり方をご説明しますが、イメージが湧きにくいようなので一度だけ手伝って顎と背中に手を当て、ゆっくりと前後方向の動かすイメージをご説明した後に、自分で顎を引く動作を続けて4回やってみます。

佛坂
佛坂

さっきの手首を曲げるのやってみましょうか

B男さん
B男さん

あれっ、今は痛くないですね

(RET w/op セラピスト1回 → RET 4回 abolish B)

通常、マッケンジー法で評価・治療するときには宿題をできるだけ少なくするために、その時のメインの症状にターゲットをしぼります。
それはそのメインターゲットが改善すると同時に、他の症状にも良い影響が出ることも多いからです。

方向性は見えていますので、この方には良い姿勢を意識した生活をおくることと、先程立って行った腰椎の伸展エクササイズを宿題にしてみました。

マッケンジー法による初回評価から一週間後。

だいぶいいようです。

エクササイズを始める前にあった座ってテレビを見ているときに感じていた左臀部の痛みは完全になくなりました。

もともと活動性が高く、自分で体を動かすことは無理なくできる方で、エクササイズは暇さえあったらやっているそうです。

左手関節の症状はというと…まだ曲げるときに少し痛みがあります。

前回は宿題からはずした顎を引く動作を5回。

B男さん
B男さん

いまは痛くないですね!

(RET 5回 abolish B)

それから3週後に来院され、もはや湿布もいらなくなったとご報告いただき卒業となりました。

今回は下肢の症状と上肢の症状が同時にあった方のお話をご紹介しました。

マッケンジー法ではある症状を改善しうる姿勢やエクササイズなどを宿題にしてその反応をフィードバックしてもらい次にやることを決めていくような評価と治療のサイクルを回します。

みなさんもご経験があるのではないでしょうか。一つの宿題ならなんとかこなせたのに、宿題がたくさんあると思った途端、そのうちの一つの宿題ですら面倒くさくなってしまったこと。

ちょっと意外に思われるかもしれませんが、脊椎に関連した上肢と下肢の症状があるときに、よりその時に気になる方の症状にターゲットを絞って、それに対しての宿題のみにして経過をみるうちにもう一つの症状も改善することは少なくありません。なので、この方のように先に気になっていた症状を改善することに集中して、その症状が改善してもなおもう一つの症状が残っているときにそれに対する評価と治療をしていくほうが宿題にしたエクササイズに対する反応がわかりやすく、また結果として症状を改善する近道になることが多いのです。