膝の痛みのために骨切り術をすすめられています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両膝の痛みがある50代女性のお話です。
5〜6年前のこと、2時間ほどのバス旅行に行ったときから右膝が痛くなり、4年前くらいから左膝も痛くなりました。どちらも膝の内側前方の痛みです。半年ほど前に部屋の模様替えしてから痛みが強くなりました。3ヶ月ほど前まで入院のできる大きな病院で看護師として働いていたのですが、病棟では介護の仕事が多く、膝の痛みが強くなりこれ以上続けられないと考えて退職したそうです。看護師としてのお仕事はできれば続けたかったようで、膝の痛みがなくなったらパートでもいいのでまた復職できればと考えています。これまで痛み止めやステロイドの注射、膝の水抜き、ときにヒアルロン酸治療など受けてきたのですが、どの治療を受けた後もあまり症状の改善感はありませんでした。ある大学病院整形外科の先生に診察してもらったところ、お薬で症状が改善しないのであれば、膝の骨切り術をするのもよいと、手術を勧められているのですが、仕事をやめてから少し痛みが改善したので迷っています。現在は、時々ヒアルロン酸注射を受けています。
両膝の痛みで骨切り術とま言われたそうなのですが、診察室へは杖などつかず普通に歩いて入って見えました。足底装具(足の外側を高くした靴の中敷きのような装具)を入れています。
たとえ膝の骨切りが必要だと診断された変形性膝関節症のある両膝の症状であっても、マッケンジー法では腰椎から評価します。
腰椎の単純X線写真では変性所見が認められますが、体を動かして問題になるような病変はないようです。
現在は少ししゃがむ動作で左膝の前内側の痛み2点、右膝の痛みはありません。屈伸の動作で膝がグツグツする感じがあります。
まずは姿勢をしっかりと矯正して保持してみます。
もう一回さっきと同じようにしゃがんでみましょうか
さっきより少し痛くないかも…
(姿勢矯正保持 B?)
腰椎の可動域を見ると、いずれも中等度の制限がありますが、膝の痛みは誘発されません。
これまでの経過、職業と姿勢矯正に対する反応など加味して腰椎の伸展方向から確認してみます。
立ったままで腰をしっかりと伸展する動きを10回。
しゃがんでみましょうか
あっ、だいぶいいです…1点くらい
(EIS 10回 B しゃがみ込み 2→1点)
良い印象ですから、しっかりと伸ばすポイントをご説明してさらに5回追加してみます。
同じようにしゃがんでみてもらえますか?
あっ、痛くないです!グツグツもあまり感じなくなりました!
(EIS 5回 B しゃがみ込み 1→0点 立ち上がりのグツグツ軽減)
方向性は見えたので、腰椎のエクササイズを確認して初回評価を終了しました。
それから3日後。
あまりにも良くなったんで驚いてるんです!
先日の来院後、坂道で少しだけ痛いかなっていうのが一回あったのですが、初診の翌朝から起きたときの痛みもまったく無くなり、まるで生まれ変わったかのようだと嬉しそうに話されました。
エクササイズはかなり頑張ってやったようで、その成果がでたようですね。
今はもうなんともありません。
靴の中敷きはしたほうがいいんでしょうか?中敷きがあるのでいろんな靴を履けないんです…
現在の症状は腰のエクササイズでよくなったわけですからあまり関係なさそうですよね、好きにおしゃれな靴を履いてみてはどうでしょうか
これからもエクササイズをしっかりと続けることが大切だということをご説明し、膝の痛みさえなければ看護師としてまだまだ働きたいと思っていたとのことでしたから、またぜひパートでも看護師として復帰してくださいとお話して卒業となりました。
最近では比較的変形の少ない早期の変形性膝関節症の患者さんに早めに骨切りをすることでよりよい結果が得られるという報告もあり、それなりに良い成績が報告されています。
もちろん、たいへん理にかなっている考え方で、その考え方自体には問題はないと思います。しかし、膝関節に変形のある膝の痛みが脊椎のエクササイズで改善した症例はこれまでにもブログでご紹介してきたとおり、珍しいことではありません。慢性の膝痛のある患者をマッケンジー法により評価した結果、44.6%の人が脊椎に関連した症状であったという報告もあります。このような理由から、早期の変形性膝関節症の骨切りを決めるスクリーニングの項目に、「マッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による介入で症状が改善しないもの」という条件は必須だと考えていますが、今回のお話を読んで、皆様はどうお考えになるでしょうか。
【参考文献】