case_216 両上腕痛

3週間ほど前に、ある朝起きたときから両腕が痛くなりました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両方の上腕が痛いという70代女性のお話です。

3週前のある朝、起き上がったときに急に両腕が痛くなりました。前日には特に変わったことはしていないのですが、いつもと違うことでやったことといえば、痛くなった朝の2日前に寝転がって本を読んだりしたことくらいしか思い出せません。
ヨガでもすこし違う動きをしたようですが、あまり無理な動きをした覚えがありません。
朝起きたときの痛みが一番強く感じるようで8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、起きて動いているうちに少しずつ軽くはなりますが、夕方には4点くらいまで軽くなるものの、また翌朝は強い痛みがあるという繰り返しになっています。肩を動かさないでじっとしていても1〜2点の痛みは常時感じているようです。

座っている姿は猫背で、今はじっとしている時には2点くらいの痛みがあります。
両肩とも外転が90°で5点の痛みがありますので、これをもう一つのベースラインに設定します。

まずは姿勢を矯正して1分。
両手をさっきと同じように横から上げてもらいます。

A子さん
A子さん

右はすこし痛みが減ったみたい…

(姿勢矯正保持 B? 右が少し改善)

頚椎の可動域は軽度制限されている程度で、肩への影響はありません。

続いて頚椎から胸椎にかけてしっかりと伸展する動かし方をご説明し、10回続けてみます。

佛坂
佛坂

さっきはじっとしているときも両腕が少し痛かったの覚えてます?今はどうですかね?

A子さん
A子さん

今はいいですね…

佛坂
佛坂

横に手を挙げるのやってみましょうか

A子さん
A子さん

右はだいぶいいみたいですけど、左はあまりかわらないような…

(SOC 右肩痛↓)

基本的に伸展方向に負荷をかけると良い反応があるようですが、動かし方をみていると、下位頚椎から上位胸椎の動きが悪いように見えますので、もう少し負荷をかけるため、デスクに肘をついてあごを支えながら頚椎から上位胸椎をしっかりと伸展させるやりかたをやってみます。

ちょっと表情が曇ってきつそうなの5回でストップ。

佛坂
佛坂

大丈夫ですか?

負荷の強い運動負荷をかけるときには患者さんの様子を細かく観察します。特に表情に少し疲れや痛みの我慢のような様子が見て取れた場合は、早めに声をかけてストップします。

少し落ち着いた様子になってから、もう一度ベースラインを確認します。

佛坂
佛坂

横に手を挙げるのやってみましょうか

すこしずつ両手を上げながら、真上まで手を上げて、

A子さん
A子さん

上がりました!

左右ともゆっくりではありますが、完全に真上まで両手を上げることができました。

(デスクに肘をついてのRET w/op self 5回 B)

自宅でのエクササイズとしては先にやった負荷の少ない方を選び、こまめに実施していただくお約束をしました。

そして、1週間後に少しだけエクササイズのポイントを再度ご説明し、2週間後。

A子さん
A子さん

まだ少しだけ痛いことがありますが、手はこんなに上がるようになりました

と、さっと両手を上げて見せていただきました。

今後も、エクササイズは続けるようにアドバイスし卒業としました。

初診の際に、マッケンジー法による評価を行ったところ、しっかりと負荷をかけて頚椎から胸椎を伸ばすとかなり効果が高いことがわかりましたが、自宅でやるエクササイズとしては最後に負荷を強めた効果の高かったやり方ではなく、最初に行った比較的軽いやり方を選択しました。見方によっては効果の高い方を選択したほうが、結果が早かったのでは?という声も聞かれそうなのですが、この方の場合は、負荷を上げると効果は高かったのですが、同時に少し辛そうに見えました。まずは軽めの負荷で繰り返し体を動かすことをやってみて、そのまま良くなればそれでよし、負荷が足りなければ体がなれてきた頃に負荷を上げても問題無しと判断したのです。マッケンジー法では症状の改善を目指すのはもちろんですが、何よりも本人が継続できそうで安全な方法を選択するのです。


痛みの評価方法(NRSなど)の情報につては日本ペインクリニック学会のリンクをご参照ください。