以前、右肩が痛くなって注射をして良くなったことがあります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左肩の痛みで来院した60代女性のお話です。
かなり前に右肩が痛くなったときに、近くの整形外科で治療をうけたことがあります。一年ほど注射の治療を受けてよくなりはした。半年ほど前に藤棚の作業をしてからか、少し左肩に違和感を覚えていたようです。2週間ほど前に腰を痛め、腰痛の治療のため受診をするつもりで今回の受診予約をしていたのですが、その痛みはだいぶ落ち着いてしまい、今は左肩から上腕の痛みがあることが主な症状になっています。そろりと動かすときにはあまり症状が出ないのですが、不意に急に左手を動かすときなど痛みがあります。じっと座っている時も少しだけ左腕の違和感があるようです。
座ってお話している姿をみると、姿勢が悪いのがわかります。
本人も姿勢の悪さをそれなりに自覚してはいるようです。
まずは姿勢を矯正し保持してみます。
左腕の感じはどうです？
なんか少し軽いような気がします
続いて頚椎の可動域を確認しますが、側屈が少しだけ制限されているかなという程度で、あまり目立った可動域制限はありません。
左手でリーチしたときに左肩の痛みを確認すると、少し後ろの方にリーチする動作で7点（考えうる最大の痛みが10点満点として）の痛みが走ります。
まずは座ったまま背骨全体を伸展してまただらりと戻ることを繰り返してしっかりと動かしてみます。
後ろに手を伸ばすのやってみましょうか？
あいたたっ！…さっきより痛いです
（SOC W）
先程の姿勢を矯正する状態では良い反応のような印象でしたが、極端に良い姿勢と悪い姿勢を繰り返す運動では症状が悪くなったようにも見えます。
そこで、今度は姿勢を整えた状態で顎だけを後ろに引く動きに、自分の右手でさらにその顎を支えるやり方で疲れたら休むようにしながら繰り返してみます。このやり方だと左肩に響く感じもないようです。一分ほどしてもう一度お伺いします。
もう一回手を伸ばすのやってみましょう
あっ……痛くないです！
（RET w/op self 反復 B）
何度か試してみながら、痛くないことを確認します。
エクササイズのやり方のポイントなどご説明し初回評価を終了しました。
それから1週間後。
痛みは軽くなったのですが、それ以上の改善がないようです。
現在の痛みを確認すると、左首筋から左腕の痛みが3点程度です。
エクササイズをどんなふうにやっていたか見せてもらえますか？
それが、エクササイズの仕方が今ひとつわからない感じだったんです…
それでもいちおうやっておられたエクササイズを確認してみます。
見ると、顎をしっかりと引く動作がうまくできていないのがわかりました。
そこで、ちょっとやり方を変えてみることにします。
こんなふうに顎を両手で支えながら胸を前に出すようなイメージでやってみましょうか
もともとやっていたやり方より顎がぐっと後ろに引けているのがわかります。
10回ほど続けてからお伺いします。
左腕の感じどうです？
なんかスーッと取れて治った感じです！
（RET w/op self反復 B 両手で顎を支えながら胸を前に出す感じで）
これまでにも肩から腕の痛みが頚椎のエクササイズで改善した症例をご紹介してきましたが、マッケンジー法で評価した結果は今回も頚椎に関連した症状だったようです。
最初にしっかりと脊椎を伸展した姿勢とだらりとした姿勢を繰り返した時、悪い反応があったように見えました。その直後にやはり頚椎の伸展方向なのですが、動かし方を変えてみたところ、今度は良い反応が得られました。
実はこのような同じ方向でもその負荷のかけ方を変えることはよくあります。
今回は最初に姿勢を整えた状態で伸展方向が良い印象であったため、さらに負荷のかけ方を変えて伸展方向を診てみたいと考えて選んだ方法です。
マッケンジー法では日常的な情報から病歴、負荷に対する症状の変化などを細かく観察し、良くも悪くも得られた反応の情報を重ねながら次に進む道を選んでいきます。